前科がつくとどうなる? 生じるデメリットや注意点を弁護士が解説
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ほとんどの人は、「前科」という言葉に悪いイメージをもっているでしょう。たしかに、前科がついてしまうことで不利益が生じる場合もあります。ただし、その不利益は、多くの人が抱かれている印象ほどに重大なものではないともいえるのです。
本コラムでは、読者の方々に「前科」について正しく理解してもらうために、前科の意味や前科がつく条件、前科をつけないために必要な対応などについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、前科とは? 前歴との違い
まずは、「前科」という言葉の意味や、「前歴」との違いを解説します。
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(1)「前科」の意味
前科という用語は、法律によって定義されているものではありません。
辞書などには、「罪を犯し、刑事裁判で有罪判決を受けて確定した刑罰の経歴」といった説明が記載されています。
日本における刑罰は、刑法第9条において、死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料という六つの主刑と没収という付加刑と定められており、このほかには存在しません。
没収は主刑に付加するかたちでしか科せられないので、前科とは「主刑となる六つの刑罰が科せられた経歴」という意味だといえます。
一般的な会話のなかでは、前科のことを「刑務所に収容された経歴」だと解釈することもあります。
しかし、厳密には、執行猶予がついたり罰金で済まされたりしたときのように刑務所への収容を免れても、前科がつくことになるのです。 -
(2)前科と前歴の違い
前科と似た使われ方をする言葉として、「前歴」があります。
前歴とは、主に警察が管理している犯罪経歴のことです。
警察が管理する前歴は、前科とは異なり、「刑罰を受けたかどうか」は問いません。
基本的に、犯罪の容疑があり警察が事件として処理したものはすべて記録されます。
そのため、警察限りで終結する微罪処分を受けた事件、検察官に送致せず事件を終結した事件、検察官が不起訴処分を下して刑事裁判に発展しなかった事件、刑事裁判で無罪判決を受けた事件なども、すべて前歴として記録が残ることになるのです。
2、前科がつくとどうなる? 日常生活にデメリットが生じるのか?
罪を犯して刑事事件に発展しまった場合、課される可能性のある刑罰だけでなく、「前科がつくことでどのようなデメリットが生じるのか」ということも気にかかるでしょう。
また「周囲の人や会社などにバレるのではないか」という不安も抱かれるはずです。
以下では、前科がつくとどうなるか、前科が日常生活に与えるデメリットを解説します。
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(1)前科の取り扱い
本来の意味での前科は、検察庁において「前科調書」というかたちで記録されています。
前科調書に記載されている情報は極めて重要な個人情報であるため、刑事事件の捜査や処分のために用いる場合を除いて、外部には公開されません。
つまり、前科調書の記録を得ることができるのは、警察や特定の分野における捜査の権限を有する特別司法警察職員だけなのです。 -
(2)前科が日常生活に与えるデメリット
罪を犯して前科がついてしまうと、次に挙げるような生活上のデメリットが生じるおそれがあります。
- 公的な資格の欠格事由に触れてしまい、資格のはく奪や受験拒否を受けてしまう
- 履歴書の賞罰欄に前科を記載しなければならないので就職が難しくなる
- 会社や学校の規定によっては、解雇や退学といった処分を受ける可能性がある
- 配偶者からの離婚が認められる事由になってしまうことがある
前科の情報は検察庁で記録されており、しかも部外には公開されないので、「みずから申告しなければバレずに済むのではないか?」と考える方もおられるでしょう。
たしかに、個人はもちろん会社や学校には前科調書の内容を照会する権限がないため、正確な前科情報を得るのは不可能です。
しかし、インターネットが普及している現代では、ニュースや新聞などで報じられた事件や裁判の情報が半永久的に残ってしまうため、みずから申告しなくても周囲の人に知られてしまい、不利益な処分を受ける可能性は高いといえます。
3、前科をつけたくない! どうすれば回避できるのか?
前科がつくことによって生じるデメリットを避けるためには、「前科をつけない」のが最善策です。
以下では、前科がついてしまう事態を避ける方法を解説します。
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(1)警察が捜査を始める前に解決する
一般的に、市中で発生した犯罪をまず捜査するのは、警察の役目です。
つまり、警察が捜査を進めることがなければその後の刑事処分も受けないため、前科がついてしまう事態も回避できるのです。
罪を犯したあと、できるだけ早い段階で被害者に謝罪して弁済を尽くせば、警察への被害届や刑事告訴を見送ってもらい、捜査が始める前に解決できる可能性があります。 -
(2)不起訴処分による終結を実現する
日本の法制度では、刑事裁判を提起する権限を有するのは検察官だけです。
検察官が起訴した事件に限って刑事裁判が開かれるため、逆にいえば刑事裁判が開かれなければ刑罰を受けることはなく、前科がつくこともないのです。
検察官が刑事裁判の提起を見送ることを「不起訴」といいます。
たとえ罪を犯したことが事実でも、被害が軽微ですでに謝罪と弁済が尽くされているなどの事情があれば「あえて刑事裁判を開いて罪を問う必要はない」という判断につながりやすくなり、不起訴処分として事件が終結する可能性が高まります。
不起訴を目指す場合は、検察官が起訴・不起訴を決定するまでに被害者との示談を成立させるなど、スピード感をもった対応が必要になります。
容疑をかけられている本人や家族などでは対応できないことも多いため、早い段階から弁護士に相談してサポートを受けることが大切です。 -
(3)刑事裁判で無罪判決を得る
前科は「刑罰を受けた経歴」であるため、刑罰を受けなければ前科はつきません。
つまり、検察官が起訴に踏み切って刑事裁判が開かれたとしても、無罪判決が得られれば前科はつかないことになります。
ただし、刑事裁判で無罪判決を得られる可能性は極めて低いといえます。
検察官が起訴や不起訴を判断する際には「証拠に照らしてほぼ確実に有罪判決を得られるかどうか」が考慮されており、起訴された事件の有罪率は99%を超えています。
したがって、罪を犯したことが事実であるなら、無罪を期待するべきではありません。
もちろん、罪を犯したという事実がないのに疑いをかけられているなら、無罪を主張するのが当然です。
ただし、容疑を晴らすためには、犯罪の事実がないことを証明する証拠をそろえて主張する必要があります。
個人で対応して無罪を主張することは困難であるため、刑事事件の経験を豊富にもつ弁護士のサポートが不可欠となります。
4、前科について覚えておきたいポイント
「前科」という用語は多くの人が知っているものですが、実際に前科がついてしまった経験をもつ人が少ないため、真実かどうかもわからないうわさが広がりがちです。
以下では、前科は時間が経てば消えるかどうかや、前科がついた場合に会社での雇用や金融機関からの借り入れ、選挙権などに生じる影響を解説します。
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(1)時間が経てば前科は消えるのか?
検察庁で管理されている前科調書の記録は永久に保存されます。
本来の「前科」の意味に従えば、時間が経っても前科が消えることはありません。
ただし、選挙権を確認する必要において市区町村が作成している「犯罪人名簿」は、刑の言い渡しの効力が消滅されたときに削除されます。
また、検察庁において前科調書とは別に保管されている犯罪経歴も、本人の死亡によって削除されるという規定があります。
もっとも、公的な前科や前歴の記録はいずれにしても外部に公開されるものではないため、再び罪を犯して事件化するようなことがなければ、削除されなくてもとくに大きな不利益はないでしょう。
公的な記録が残ることよりも危険なのは、ネットで公開された情報です。
ニュースサイトで公開された記事、個人のブログやまとめサイトなどで書かれた記事、SNSで拡散された情報は、管理者が削除しない限り半永久的に公開されます。
新入社員を採用する企業などではネットから過去に素行不良などがないかを確認することも多いため、たとえ前科が消えても不利な扱いを受けるおそれがあるのです。 -
(2)会社から解雇される?
前科があること、あるいは前科がついたこと自体を理由に会社が一方的に労働契約を解消して「解雇」することは、基本的には不当であるとされています。
ただし、会社が定めた就業規則において、たとえば「禁錮以上の刑罰を受けた場合は解雇する」といった条件が示されていれば、解雇が適法とされる可能性が高いといえます。
また、履歴書の賞罰欄に記載すべき前科を記載せずに採用され、あとで前科が発覚してしまった場合も、解雇が適法とされるおそれがあるのです。
たとえば、運転を主な業務とする会社に就職する際に無免許運転の前科を隠したり、会計職員として就職する際に過去の会社で興した業務上横領の前科を隠したりといった、採用の可否を決めるうえで重大な前科を隠していれば、解雇を免れるのは難しいといえます。 -
(3)金融機関からの借り入れやローン、賃貸物件の契約などに影響する?
銀行など金融機関からの借り入れや信販会社のローン、賃貸物件の契約などでは、前科の有無が影響することはありません。
前科があることと支払い能力などの経済的な信用は無関係です。
そもそも、金融機関や不動産業者・不動産オーナーなどでは前科を知りたくても調べる方法がないため、この点に関しては不安を感じる必要はないでしょう。
ただし、金融機関や不動産業者などは、「顧客が今後トラブルを起こす人物ではないか」という点を慎重に審査します。
ネットの情報などから前科があると発覚してしまったことが原因で不利な扱いを受けても、「前科があるので審査で否決した」といった判断結果を明かしてもらえるわけではないため、まったく影響がないとは断言できません。 -
(4)選挙権を失うのか?
日本に住むすべての成年者には、憲法によって選挙権が保障されています。
ただし、公職選挙法や政治資金規正法に違反して公民権を停止された場合には、選挙における投票や立候補ができなくなります。
また、選挙犯罪によって選挙権や被選挙権が停止している場合には、選挙運動も禁止されるのです。
公職選挙法や選挙犯罪などと関係のない前科では、選挙権を失うことはありません。
選挙が近づけば投票の整理券が送られてくるほか、立候補することも可能です。 -
(5)海外渡航できなくなる?
前科がつくと、海外への渡航や海外での永住権申請の際に、相手国から不利な扱いを受けることがあります。
手国の法律によっては、国内の警察本部で発行する「犯罪経歴証明書」の提出を求められます。
この証明書は別名で「渡航証明書」や「無犯罪証明書」とも呼ばれており、罰金以上の前科がないことを証明するものです。
もし前科があると、渡航前にあらかじめビザの発給を受ける必要があったり、ビザを発給されていても入国審査で拒否されたりといった事態が起きる可能性があります。
海外旅行などの機会だけでなく、海外への出張や転勤などにも影響することがある点に注意しましょう。
なお、警察本部が発行する犯罪経歴証明書には罰金以上の前科しか記載されないため、警察限りで処理が終了した事件や不起訴になった事件、無罪判決を受けた事件は記載されません。
「仕事などの都合で海外へ渡航する機会が多く、制限を受けると困る」という事情がある場合には、前科を回避するための対策を講じるべきでしょう。
5、まとめ
「前科」とは、刑事裁判で有罪判決が下されて刑罰が言い渡された経歴を指すものです。
前科がついてしまうと、刑事手続きにおいて不利な扱いを受けるだけでなく、日常生活にもさまざまな悪影響が生じる可能性があります。
また、前科に関する情報は検察庁において厳格に管理されており外部に漏れることはありませんが、インターネット上に残った報道やSNSの情報などから前科が知られてしまうおそれがあります。
悪影響を最小限に抑えるためには、罪を犯して刑事事件に問われそうになった段階で、積極的に解決を目指すための対応をできるだけ早くとることが大切です。
「罪を犯してしまったけど、前科をつけたくはない」と希望される方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
刑事事件の実績豊富な弁護士が、前科がついてしまう事態を回避するためのサポートを行います。
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