完全黙秘は難しい? 続けたらどうなる? 黙秘のメリットとデメリット

2024年09月11日
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完全黙秘は難しい? 続けたらどうなる? 黙秘のメリットとデメリット

令和6年2月、北千葉道路汚職事件において、県職員は容疑を認め、元社長は黙秘を続けているという報道がありました。

ここで挙げた事例も含めて、ドラマなどのフィクションでも逮捕された容疑者が黙秘し、取り調べにおける供述を拒むシーンがたびたび登場します。厳しい取り調べに対して黙秘を貫き、一切供述しないことを「完全黙秘」と呼びますが、果たして完全黙秘を貫き通せるものなのでしょうか?

本コラムでは、取り調べに対する「完全黙秘」について法的な角度から詳しく解説したうえで、黙秘を続けることのメリット・デメリット、黙秘するべきケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。


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1、「完全黙秘」を続けることは可能か?

ニュースの報道やドラマ・映画などフィクションの世界でも「黙秘」という用語は頻繁に登場します。
一般的には「秘密を黙ったままで押し通す」と解釈されますが、刑事事件における「黙秘」は法律による保護を受けた権利であり、単に押し黙ることだけを指すものではありません。

まずは「黙秘」や「完全黙秘」の意味や法的な解釈を確認しながら、黙秘できる情報の範囲、完全黙秘の可否を解説します。

  1. (1)「黙秘・完全黙秘」とは?

    「黙秘」とは、警察・検察官からの取り調べや刑事裁判の場において、質問に対し供述を拒むことです。
    質問の一部には答えるものの重要な点など一部には答えないことを「一部黙秘」といい、すべての供述を拒むことを「完全黙秘」と呼んで区別します

    その名が示すとおり「押し黙る」のが黙秘の典型ですが、重要な質問に対して「それだけは答えられない」と拒んだり、無関係な答えを返したりするのも黙秘のひとつです。

    重大な事件の容疑者が逮捕されたといったニュースで「取り調べに対して黙秘している」と報じられると「ひきょうだ」とか「反省がない」といった意見が集まる傾向があります。
    しかし、取り調べなどで黙秘することは法によって認められた権利です。

    日本国憲法第38条1項は、すべての人について「自己に不利益な供述を強要されない」と明記しています。
    また、刑事訴訟法第198条2項にも、警察や検察官による取り調べに先立って「自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない」という定めがあります。

    黙秘を続ける「黙秘権」は、罪を認めさせようとする捜査機関からの不当な取り調べを防ぎ、無実であるのに処罰されてしまう「冤罪(えんざい)」を回避するための防御策として保障されているのです。

  2. (2)黙秘できる情報の範囲

    黙秘の法的な根拠は日本国憲法と刑事訴訟法の定めですが、これら2つの法令の間には黙秘できる情報の範囲に差があります。

    • 日本国憲法
      自己に不利益な供述……犯罪の証明における重要な部分で、供述すれば自分にとって不利益を招く=有罪につながるおそれのある情報のみが黙秘権で保護される
    • 刑事訴訟法
      自己の意思に反する供述……有益・不利益にかかわらず、自分が「話したくない」と感じた情報はすべて黙秘権の対象となる


    このように比べると、日本国憲法が保障する黙秘権は限定的で、刑事訴訟法が保障する黙秘権は無制限であるように解釈できます。
    ただし、わが国の制度では日本国憲法が最高位にあるため、たとえ刑事訴訟法が無制限に保障していても、日本国憲法が定める範囲を超えることは認められないのが原則です

    たとえば、氏名・生年月日・住居といった個人を識別するための「人定事項」は、これらを明らかにすることで別の犯罪や刑の加重が成立してしまうといった特殊な状況でない限り、黙秘できません。
    また、体内に保有するアルコール量を調べるための呼気検査や、指紋などの採取、供述を交えない写真撮影などは、供述を求めるものではないので黙秘権による保障は受けません。

  3. (3)完全黙秘は可能だが現実的には難しい

    基本的には「自己に不利益な供述」の拒否のみが黙秘権によって保障されますが、実際には刑事訴訟法が保障するようにすべての供述を拒否して押し黙ることも可能です。
    取調官には供述を強要する権限はないので、供述をまとめる「供述調書」も取調官の質問に対して「黙して語らず」などと記載されるかたちで作成されます。

    ただし、すべての供述を拒否する完全黙秘は簡単ではありません。
    供述をしないことで捜査が難航してしまうので、捜査未了を理由に身柄拘束の期間が長引いてしまうおそれがあります
    また、なんとか供述を得ようとする取調官の語気が鋭くなり、高圧的な取り調べが続くため、1日に何時間も押し黙って座っておくのが苦痛になり、供述してしまうケースも多数です。

2、一貫して黙秘することのメリット・デメリット

黙秘権を行使し続けることは、被疑者にとって有利にはたらく可能性がある一方で、不利益を招く危険もあります。

  1. (1)黙秘を続けるメリット

    黙秘を続ければ、自分にとって不利にはたらく「犯行を認める供述調書」が作成されません。
    特に、客観的な証拠が乏しい事件では自白の有無が重視されるので、自白を示す供述調書が作成されないことは有利な処分を望む被疑者にとって大きなメリットとなるでしょう。

  2. (2)黙秘を続けるデメリット

    黙秘を続けたからといって、それを理由に不利益を課すことは許されませんが、実際の刑事手続きのなかでは不利益が生じてしまうおそれがあります。

    前提として、黙秘しているという理由で「黙っているのは犯行を証明されたくないからだ」と勝手に推認し、犯罪事実を認定したり、身柄拘束の可否を決めたりするのは違法です。
    しかし、被疑者が黙秘を続ければ、捜査機関は客観的な証拠を徹底して集めて対抗してきますし、必要な取り調べも未了となるため身柄拘束の期間も長引きやすくなります。

    完全黙秘は、不利益を招く状況を回避できる可能性を高める一方で、被疑者にとって有利な事情があっても捜査機関や裁判官に伝わらないおそれがあると理解しておきましょう。ご自身が黙秘を続けたほうがよいか悩まれるのであれば、弁護士と相談して検討すべきといえます。

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3、黙秘を貫いたほうが有利となるケース

完全黙秘が必ず有利な状況につながるとはいえませんが、不用意な供述によって誤った供述をしてしまい、不利益を被ってしまうこともあります。
ここで挙げるようなケースでは、完全黙秘を検討したほうがよいでしょう。

  1. (1)誘導的な取り調べで犯意を引き出されそうになっているケース

    警察や検察官による取り調べでは、捜査側にとって都合のよい方向に誘導されることがあります。
    犯行を否定する供述を尽くしているつもりなのに「そういう結果になるかもしれないとわかっていた」といった内容にすり替えられてしまう、といったケースです。
    不用意な発言があると、犯罪の意思があった、罪を自覚しているといった内容に仕立て上げられてしまう危険があるので、黙秘を貫いたほうが安全です。

  2. (2)自白を強要されているケース

    「お前がやったんだろう!」と怒鳴られたり、「早く認めないとどんどん不利になっていくぞ」と脅されたりして自白を強要されている状況も、黙秘を考えたほうがよいでしょう。
    少しでも犯行を認めるような供述があるだけで自白調書を作成されてしまうかもしれません。

  3. (3)無実であるのに疑いをかけられているケース

    無実であるのに疑いをかけられている状況なら、誰もが自分が犯人ではないと説明を尽くすでしょう。
    しかし、被疑者自身が犯人ではないことを説明しても、言い逃れをしているのではと捜査機関は疑いを深め、自白を得ようとさらに取り調べが厳しくなるおそれがあります。
    言葉の端々突いて攻撃してきたり、供述を歪曲させて自白と捉えられたりするので、黙秘したほうが安全なケースも少なくありません。

4、黙秘の可否や不当な取り調べへの対抗は弁護士に相談を

完全黙秘は被疑者に認められた権利であり、状況次第では自分の身を守る武器となります。
しかし、自分が置かれた状況を正確に評価できないままでむやみに完全黙秘をしてしまうと、大きな不利益を招いてしまうかもしれません。
自分だけの判断で決めるのは危険なので、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

  1. (1)黙秘が有利にはたらくかを正確にアドバイスできる

    法令が黙秘権を認めているのは、逮捕や勾留といった身柄拘束を受けている被疑者が冤罪(えんざい)から身を守るためです。
    犯罪の事実があるのに「質問に答えなければ無罪になるだろう」と期待したり、単に「取り調べに応じたくない」と考えたりして行使するものではないので、必ず有利にはたらくとはいえません。
    捜査未了を理由に身柄拘束が長引いたり、有利な事情を主張できず結果として重い刑罰が科せられたりするおそれもあるので、安易な黙秘はかえって危険です。

    黙秘したほうが有利なのか、それとも不利益を招くおそれがあるので避けるべきなのかを自分で判断するべきではありません
    法律の深い知識や刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。

  2. (2)不当な取り調べへの対抗策をアドバイスできる

    完全黙秘を貫いていると、捜査機関側の取り調べが激化する可能性が高まります。

    不当な取り調べを受けた場合は、直ちに取り調べの中断を求めて弁護士との接見を希望し、対抗策のアドバイスを受けましょう。
    弁護士によって捜査機関側に抗議を申し入れ、不当な取り調べの改善や供述調書の証拠能力の否定を主張することも可能です。

5、まとめ

取り調べに対して「黙秘」することは、被疑者が不当な取り調べから身を守り、冤罪(えんざい)を防ぐために認められた権利です。
重要な事実の一部分だけを黙秘するだけでなく、すべての供述を拒む「完全黙秘」も可能ですが、むやみな黙秘は不利益を招いてしまうおそれがあると理解しておく必要がある点に注意が必要であるといえるでしょう。

黙秘の可否を個人で判断するのは危険です。必ず弁護士に相談してアドバイスを仰ぎましょう。

警察や検察での取り調べの際、黙秘すべきか否かにお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、事件の解決に向けて全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています