サービス残業は違法? 黙認されていても残業代を請求できる?

2023年01月26日
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サービス残業は違法? 黙認されていても残業代を請求できる?

千葉労働局は、主に千葉県内で発生した労働基準関係法令違反に関する送検事例を公表しています。2022年に発生した送検事例では、工務店が墜落防止措置を講じることなく労働者を高所で作業させた事例(3月18日送検)や、製作所がプレス機械に安全囲いを設ける等の措置を講じていなかった事例(5月12日送検)などが公表されています。

労働基準法では、時間外労働(残業)に対しては必ず残業代を支払うべき旨が定められています。いわゆる「早出残業」や、会社が黙認しているサービス残業についても残業代が発生するので、一度弁護士までご相談ください。

今回はサービス残業について、労働基準法のルールや会社に対する請求の内容・方法などを、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

出典:「送検事例」(千葉労働局)

1、サービス残業とは?

「サービス残業」とは、適切な残業代が支払われない残業のことです。

  1. (1)サービス残業=適切な残業代が支払われない残業

    労働基準法上、労働者(従業員)が残業をした場合、会社は残業代を支払わなければなりません。

    会社が支払うべき残業代は、残業の種類に応じて以下のとおりです。

    法定内残業 通常の賃金
    時間外労働 通常の賃金×125%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働 通常の賃金×135%
    深夜労働 通常の賃金×125%
    時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%

    上記の要領で計算される残業代のうち、全部または一部が支払われていない場合、労働者はサービス残業をしていることになります。

  2. (2)サービス残業の具体例

    サービス残業は、以下のような形で行われるケースが多いです。

    • 定時にタイムカードを打刻させ、その後残業させる(残業代は支払わない)
    • 始業時間よりも早く出勤させ、仕事の準備をさせる(残業代は支払わない)
    • 「管理職だから」という理由で残業代を支払わない(実際には、労働基準法上の管理監督者に該当しないため、残業代を支払う義務がある)
    • 「固定残業代を支給しているから」という理由で、残業代を一切支払わない
    など


    上記に挙げた例のほかにも、労働基準法に従った残業代がきちんと支払われていなければ、サービス残業に該当します。

  3. (3)会社の具体的な指示がなくても、サービス残業に当たり得る

    会社が労働者に対して、残業を具体的に指示していないとしても、会社は残業代の支払い義務を負う場合があります。

    労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間は「労働時間」に該当し、残業代が発生します(最高裁平成12年3月9日判決)。

    仮に残業の具体的指示がなくても、会社の指揮命令下で働いていると評価される限り、残業代が発生するのです。

    たとえば、会社が労働者に対してあまりにも多くの業務を課していて、所定労働時間の範囲内では到底終わらない場合、所定労働時間を超えた部分は労働時間に該当し、残業代が発生します。

    このように、会社に「黙認」されているサービス残業についても、残業代が発生することを知っておきましょう。

2、サービス残業をした労働者が会社に請求できるもの

サービス残業をした労働者は、会社に対して未払い残業代と遅延損害金を請求できます。

  1. (1)未払い残業代

    未払い残業代は、2020年3月31日以前に発生したものについては2年間、2020年4月1日以降に発生したものについては3年間さかのぼって請求できます。

    後述する計算式に従って残業代を算出し、漏れなく会社に対して請求を行いましょう。

  2. (2)遅延損害金

    未払い残業代は支払期日を過ぎているため、法定利率による遅延損害金が発生します(民法第419条第1項)。
    未払い残業代の遅延損害金の法定利率は、2020年3月31日以前に発生したものについては年5%、2020年4月1日以降に発生したものについては年3%です。

    ただし実務上は、遅延損害金の精算が行われるのは訴訟の場合がほとんどで、和解によって解決する場合には遅延損害金を精算しないケースが多いです。

3、未払い残業代等を会社に請求する方法

サービス残業をした労働者が、会社に対して未払い残業代(+遅延損害金)を請求する場合は、以下の対応が必要となります。

  1. (1)残業の証拠を集める

    労働審判や訴訟などの法的手続きに発展した場合に備えて、まずは残業の証拠を確保することが重要になります。

    残業の証拠としては以下の例が挙げられますので、利用できる証拠はできる限り豊富に確保しましょう。

    • タイムカードや勤怠管理システムの記録
    • 社内システムのログイン、ログアウト履歴
    • 交通系ICカードの乗車履歴
    • オフィスの入退館履歴
    • 業務上のメール(送信日時など)
    • 業務日誌
    など
  2. (2)労働基準法に従って残業代を計算する

    残業の証拠がそろったら、労働基準法のルールに従って残業代を計算しましょう。

    残業代は、以下の式によって計算されます。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数


    1時間当たりの基礎賃金は、残業代や賞与などを除外した賃金の総支給額を、月平均所定労働時間で割って計算します(月給制の場合)。

    割増賃金率は、以下のとおりです(再掲)。

    法定内残業 通常の賃金
    時間外労働 通常の賃金×125%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働 通常の賃金×135%
    深夜労働 通常の賃金×125%
    時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%
  3. (3)会社と支払い交渉をする

    残業代の計算が済んだら、会社に対してその全額を支払うように請求します。

    まずは早期解決を目指して、会社と直接支払い交渉を行うのが一般的です。会社が支払いに同意すれば、スムーズに未払い残業代を獲得できます。

    自力で会社と支払い交渉をすることが難しければ、弁護士を代理人として交渉するのがおすすめです。労働問題の解決実績がある弁護士であれば、労働基準法の根拠に基づいて請求を行うことで、会社による支払いの同意を引き出せる可能性が高まります

  4. (4)労働審判を申し立てる

    会社が未払い残業代の支払いに応じない場合は、労働審判を申し立てることが考えられます。

    労働審判とは、労使紛争の迅速な解決を目的とする法的手続きです。裁判官(労働審判官)1名と労働審判員2名が、労使双方の主張を公平に聞き取ったうえで、調停を試みます。調停が成立しなければ、労働審判によって解決を示します。

    労働審判の特徴は、原則として審理が3回で終結するため、未払い残業代問題の迅速な解決が期待できる点です。

    ただし、いずれかの当事者から労働審判に対する異議申立てが行われれば、自動的に訴訟手続きへと移行します。

    労働審判では、裁判官と労働審判員に対して、残業代請求権の存在を証拠に基づき主張することが大切です。弁護士を代理人として臨むことで、労働審判における主張を効果的に行うことができます。

    参考:「労働審判手続」(裁判所)

  5. (5)訴訟を提起する

    労働審判に対して異議申立てが行われれば、訴訟手続きへと移行します。また、労使間の主張が大きく食い違っており、労働審判による解決が期待できない場合は、当初から訴訟を提起することも考えられます。

    訴訟では、残業代請求権の存否・金額につき、労使双方が主張・立証(反証)を行います。
    最終的に、裁判所が残業代請求権の存在を認定すれば、会社に対して未払い残業代の支払いを命ずる判決を言い渡します。

    訴訟は専門的な手続きで、半年~1年以上と長期化することもよくありますそのため、弁護士を代理人としたうえで、万全の準備を整えて臨みましょう

4、サービス残業が続いている場合は弁護士にご相談を

サービス残業が常態化している場合、過去にさかのぼって残業代を請求することができます。また、労働者にサービス残業をさせることは労働基準法違反に該当するため、労働者は会社に対して、サービス残業の強制をやめるように求める権利があります。

これらの請求・主張を会社に受け入れさせるには(あるいは法的手続きによって認定してもらうには)、法的根拠と証拠に基づく主張を行うことが非常に大切です。

弁護士に相談すれば、状況を踏まえた上で主張戦略を検討し、未払い残業代の回収と労働環境の改善を早期に実現できるよう、会社に働きかけるでしょう

会社によってサービス残業命令を受けている方は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

会社が労働者にサービス残業を命じ、残業代を支払わないことは労働基準法違反に当たります。労働基準監督署に相談することも一つの選択肢ですが、会社に直接未払い残業代を請求したい場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代請求に関するご相談を随時受け付けております。
サービス残業の残業代を回収したい方は、お早めにベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています