身柄事件とは? 在宅事件との違いや手続きの流れについて
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刑事事件の流れのなかには、日常生活には縁のない特殊な用語が登場します。そのひとつが「身柄」という用語です。
たとえば、令和4年5月に幕張の路上で発生したタクシー運転手への傷害・窃盗事件では、警戒中の警察官が「身柄を確保した」と報じられました。この事件では、傷害・窃盗事件の容疑者として会社員の男が逮捕されています。
このような事件を「身柄事件」といいますが、その後はどのような手続きが進むのでしょうか。本コラムでは「身柄事件」の意味や流れ、在宅事件との違いなどを、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、身柄事件とは|在宅事件との違い
実際のニュース・新聞報道のほか、ドラマなどのフィクションの世界でも「身柄」という用語が登場する機会がありますが、やはり日常会話のなかで用いられることはほとんどないでしょう。
まずは「身柄」や「身柄事件」の意味を確認していきます。
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(1)「身柄」とは?
「身柄」とは、当人そのもの、当人の身体といった意味をもつ日本語です。そういった意味に注目すれば、身柄という用語は決して刑事事件に限って用いられるものではありません。
また、刑事事件においては「身柄を確保する」「身柄が取り押さえられる」のように容疑者を指したり、「子どもの身柄を預かった」のように被害関係者を指したりと、誰を指す用語なのかは曖昧です。 -
(2)逮捕を伴うのが「身柄事件」
「身柄事件」とは、容疑者の身柄が「逮捕」された事件を指します。容疑者について逮捕による身体的な拘束を伴うのが身柄事件です。
ほかにも「逮捕事件」「強制事件」といった表現が用いられることがありますが、すべて同じ意味だと考えておけばよいでしょう。 -
(3)逮捕を伴わないのが「在宅事件」
身柄事件と反対の意味で用いられるのが「在宅事件」です。在宅事件とは、容疑者を逮捕せず在宅のままで捜査が進む事件で、ほかにも「任意事件」と呼ばれることがあります。
誤解している方も少なくありませんが、刑事事件を起こしたからといって必ず逮捕されるわけではありません。
逮捕とは、容疑者の逃亡や証拠隠滅を防いで捜査の実効性を確保したうえで、正しい刑事手続きを受けさせるために法的な許可にもとづいて自由を制限する処分です。
つまり、逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合は身柄を拘束する必要がないので逮捕されません。
実は、刑事事件の7割近くは在宅事件として処理されています。令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に検察庁が処理した全刑事事件の総数は28万1342件でしたが、逮捕を伴う身柄事件の割合は34.8%でした。
つまり、残る65%の事件は、そもそも在宅事件であったか、あるいは身柄事件から在宅事件へと切り替えられて処理されたことになります。
2、身柄事件における逮捕後の流れ
刑事事件を起こして逮捕されると、その後はどんな刑事手続きを受けるのでしょうか。身柄事件の流れを確認していきます。
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(1)逮捕による身柄拘束
警察に「逮捕する」と告げられた瞬間から、逮捕による身柄拘束が始まります。自由な行動が制限されるので、自宅に帰ったり、家族や勤務先に電話をかけて事情を伝えたりすることは許されません。
警察署に連行されると、弁解録取などの手続きを経たのちに留置場へと収容され、その後に警察官による取り調べを受けます。
警察による身柄拘束は48時間が限界です。逮捕から48時間が経過する前に、容疑者の身柄は検察官へと引き継がれます。この手続きを「送致」といいますが、ニュースなどでは「送検」とも呼んでおり、こちらのほうが聞き覚えのある方も多いでしょう。
送検を受理した検察官に与えられた時間は24時間です。検察官は、24時間以内に容疑者の身柄を釈放するか、引き続き拘束するのかを選択しなければなりません。
ここまでが「逮捕」による身柄拘束です。 -
(2)勾留による身柄拘束
検察官が「さらに身柄拘束を続ける必要がある」と判断したとしても、逮捕による身柄拘束は最大72時間が限界です。そこで、検察官は、裁判官に対して「勾留」の許可を求めます。
勾留を受けると、容疑者の身柄は警察へと戻され、検察官による指揮のもとで警察が捜査を担当します。再び警察署の留置場に収容されるので、帰宅や連絡は許されないままです。
勾留による身柄拘束の期間は、初回で10日間です。ただし、期限までに捜査が遂げられなかった場合は一度に限って10日間以内の延長が認められています。実際には少なくないケースで、最大限となる20日間の勾留を受ける可能性があります。 -
(3)起訴されると刑事裁判へ
勾留が満期を迎える日までに、検察官は「起訴」または「不起訴」を判断します。検察官が起訴に踏み切った場合は容疑者の立場が被告人になり、刑事裁判が終わるまで引き続き勾留されるので、家族や仕事からは引き離されたままです。
初回の刑事裁判は、起訴からおよそ1~2か月後に開かれます。以後、おおむね1か月に一度のペースで開かれ、とくに争点がないケースでは1回の裁判で終わりますが、逮捕から数か月~半年近くは社会から隔離された状態になるでしょう。
さらに刑事裁判で懲役や禁錮の実刑判決を受けると、そのまま刑務所へと収監されてしまいます。
3、逮捕されても「釈放」される? 身柄が解放されるケース
逮捕や勾留といった身柄拘束が解除されて自由になることを「釈放」といいます。
社会復帰を容易にするためには、できるだけ素早い釈放が望まれますが、どのタイミングで釈放されるのかは状況次第です。逮捕後に釈放されるタイミングをケース別に確認していきましょう。
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(1)すぐに誤認逮捕だと判明して釈放されるケース
警察による逮捕後、すぐに別の真犯人が判明するなどして容疑が晴れた場合は「誤認逮捕」としてただちに釈放されます。
ただし、逮捕するためには容疑をかけられるそれなりの理由があるはずなので、容疑をかけられてしまった人自身が「私は犯人ではない」と主張しただけで釈放されることは期待できないでしょう。 -
(2)送検後、勾留されず釈放されるケース
検察官のもとへ送致されたあと、検察官が「身柄拘束を継続する必要はない」と判断した、あるいは裁判官が勾留請求を却下した場合は、勾留されず釈放されます。
もっとも、令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に検察庁で処理された身柄事件の93.7%が勾留されているので「勾留されなかった」というケースにはあまり期待できません。
また、勾留されなかった場合も在宅事件として捜査が続行されるので、たとえ釈放されても警察署や検察庁に呼び出されて取り調べを受けることになります。 -
(3)起訴後に一時的な「保釈」を受けるケース
検察官に起訴されると被告人としてさらに勾留されますが、この段階からは「保釈」を請求できるようになります。
保釈とは、保証として保釈金を納めることで一時的に身柄が解放される制度です。被告人には保釈を請求する権利が与えられており、法律が定めている条件を満たさない場合でも裁判官の裁量によって許可できるので、起訴されれば保釈が許可される可能性は高いでしょう。
ただし、あくまでも刑事裁判が終わるまでの一時的な身柄開放であり、実刑判決を受ければ刑務所へと収監されるほか、条件を守らなければ保釈が取り消されるうえに保釈金も返ってこなくなるので要注意です。 -
(4)不起訴になって釈放されるケース
検察官が「不起訴」を選択した場合も、これ以上は身柄拘束を続ける必要がないので釈放されます。
令和3年版の犯罪白書によると、令和2年の起訴率は刑法犯で37.4%、道交法違反を除く特別法犯で48.8%でした。
裏を返せば、刑法犯では6割程度、特別法犯では5割程度が不起訴になっている計算です。そして不起訴の7割は、有罪の証拠は十分そろっているものの、諸般の事情からあえて起訴を見送るという「起訴猶予」という処分が占めています。
罪を犯したのが事実でも、事件後の対応次第では不起訴となり刑罰を回避できる可能性があることを覚えておきましょう。 -
(5)刑事裁判が終わって釈放されるケース
刑事裁判が終われば、身柄拘束を続ける必要はありません。無罪判決を受けた、懲役や禁錮に執行猶予がついた、罰金や科料が言い渡されて納付したといったケースでは、その時点でただちに釈放されます。
もっとも、この段階に至るには通常の公開裁判で数か月、手続きを簡略化した略式手続でも逮捕から1か月ほどの時間を要することになるので、釈放されても社会復帰には高いハードルを感じることになるでしょう。
4、身柄事件のサポートは弁護士に相談を
刑事事件が処理されるルートには「身柄事件」と「在宅事件」の2つがあります。身柄事件でも不起訴になることがあれば、在宅事件でも起訴されて実刑判決を言い渡されることがあるのだから、どちらのほうの罪が重いといった違いはありません。
とはいえ、逮捕に始まる身柄拘束を受けて社会から隔離されてしまうという点をみれば、身柄事件のほうが容疑をかけられてしまった人にとって不利益が大きいのは明らかです。事件を穏便に解決したうえで社会的な不利益を軽減するには、弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)早期の釈放を目指したサポートが期待できる
逮捕・勾留による身柄拘束は最大23日間にわたります。
この期間は、自宅へ帰ることも、会社や学校へ行くこともできないうえに、携帯電話・スマホも警察署の留置担当者に預けなければならないので連絡も一切取れません。
欠勤・欠席が続けば逮捕された事実が明るみになりやすいだけでなく、解雇や退学といった不利益な処分にもつながりやすくなるので、早期釈放を目指す必要があります。
弁護士に相談すれば、早期釈放を目指した弁護活動が期待できます。定まった住居で家族とともに生活している、家族が監督を誓約しているなどの状況を客観的に説明して身柄拘束の必要がないことを主張する、勾留決定に対する不服申立てとして準抗告という手続きを進めるなど、身柄拘束の回避や解除に向けたサポートが可能です。 -
(2)有利な処分を目指したサポートが期待できる
刑事事件を起こして逮捕されてしまったとき、もっとも穏便な解決といえる結果は「不起訴」です。
また、たとえ起訴されて有罪判決を言い渡されたとしても、懲役や禁錮に執行猶予がついたり、罰金で済まされたりすれば、前科はついてしまうものの社会復帰が許されます。
これらの有利な処分が得られる可能性を高めるには、被害者との示談交渉や捜査機関・裁判官へのはたらきかけが欠かせません。しかし、法律の知識や刑事事件に対応した経験をもたない一般の方では、どのように示談を進めればよいのか、どうすれば捜査機関や裁判官に有利な事情を示すことができるのかもわからないでしょう。
不起訴や執行猶予などの有利な処分を目指すなら、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に対応をまかせたほうが安全です。
5、まとめ
「身柄事件」とは、容疑者が逮捕され、身柄拘束を受けている事件のことを指す用語です。逮捕・勾留による身柄拘束は最大で23日間にわたり、さらに起訴されて被告人になれば刑事裁判が終わるまで釈放されないので、身柄事件となった場合は大きな不利益を被る危険があります。
ご家族が犯罪の容疑をかけられてしまい、逮捕されて身柄事件となってしまった場合は、早期釈放や処分の軽減を目指して素早くアクションを起こす必要があります。
ただちに、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。経験豊かな弁護士とスタッフが一丸となって、事件解決を全力でバックアップします。
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