物言う株主への対策を、企業はどのように行うべきなのか
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近年、アクティビストと呼ばれる物言う株主の活動が活発です。株主総会などの報道で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「経営者の選任・解任に対して厳しい提案を受けた」「赤字にもかかわらず増配要求してきた」などのケースは、株式会社であれば対岸の火事ではありません。今後アクティビストから株主提案を受けた場合、どのような対策をとるべきか企業として方針を固め、備えておく必要があるでしょう。
この記事では、近年活動が活発化する物を言う株主、アクティビストの特徴と対策などについてベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、物言う株主(アクティビスト)とは?
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(1)物を言う株主(アクティビスト)とは
アクティビストとは、一般的に、会社の株式を一定程度保有し、投資先の企業に対して、積極的な提言を行う株主のことをいいます。
いわゆる「物を言う株主」であり、経営陣との交渉やレターのやり取りを行う、株主提案権を行使する、自己の提案を通すために委任状合戦を行うなどして、会社に対する影響力を及ぼします。
しかし、そもそも株主とは、会社の所有者と言われており、会社に投資をした出資者ですから、「物を言う」ことは当然ではないのか、なぜわざわざ「物を言う」株主が注目を集めることになるのか疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
日本の企業では、伝統的に会社同士または会社に融資をしている銀行などの金融機関と会社との間で、株式を相互に保有する慣行(これを株式の持ち合いといいます。)があり、株主は会社の提案に賛成することがほとんどでした。しかし、1990年代初頭のバブル崩壊の影響から、銀行などの金融機関は保有する株式を大きく減らし、このような株式の持ち合いの割合が減りました。
2000年代に入ると、とりわけ大規模な上場会社において国内外の機関投資家の株式保有が急増することになり、これらの機関投資家が、純粋に株主利益最大化の観点から議決権を行使し、会社の提案に反対することが増えてきたのです。その後、さらに投資ファンドなどが会社への要求を行うようになり、現在に至ります。現在アクティビストと言われる株主は、投資ファンドであることが多いでしょう。
このように、伝統的には経営陣に配慮し、会社の提案に反対したり、株主提案権を行使したりする株主はほとんどいなかったので、「物を言う」株主と言われるのです。 -
(2)物を言う株主(アクティビスト)の提案内容
それでは、物を言う株主であるアクティビストは、会社に対して、実際にどのような提案をしてくるのでしょうか。
代表的な株主提案は以下の通りです。- 取締役の選解任
- 増配要求
- 役員報酬の引き下げ
- 自社株買い(自己株式の取得)の要求
- 低収益事業の売却要求
- 高収益事業の買収要求
- 関連会社の上場化・非上場化
いずれの提案も、企業経営の重要な内容であり、アクティビストはこれらの提案を積極的に行い、会社経営に影響を及ぼすのです。
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(3)株主提案権について
前述のアクティビストの提案を実現する会社法上の手段のひとつが、株主提案権という株主の権利です。
株主総会の議題や議案は、通常は取締役(取締役会)から提案され、「会社提案」と言われます。この会社提案に対して、一定の要件のもと、株主からも株主総会の議題や議案を提案できるようにしたのものが、株主提案権(会社法303条以下)です。
アクティビストは、この株主提案権を使い、自らの要求を主張することは頻繁になされています。そして、数は少ないものの、実際に株主提案が可決された事例もあります。取締役の選解任に関する株主提案と委任状勧誘を組み合わせれば、経営権の取得を目指すことも可能であって、敵対的買収の関係でも意味を有することになります。
2、物言う株主(アクティビスト)の特徴
一口にアクティビストといっても、実はその目的や特徴はさまざまです。以下は類型的な特徴をご説明します。
- 受動的なアクティビスト
年金基金や投資信託などは、そのファンドの投資方針による制約から株式を売却することができずに議決権を行使する場合や、制度変更に伴い、やむなく議決権行使をするといった場合があります。株主としての提案は行うものの自発的な提案を行わないために、受動的なアクティビストと言われます。 - 社会運動を目的とするアクティビスト
企業として社会的責任の遂行を求めるために活動を行うアクティビストをいいます。SRIアクティビストなどとも言われます。積極的な会社への提案を行いますが、株主としての直接的な利得の獲得が目的ではない点で以下の能動的なアクティビストとは異なります。 - 能動的なアクティビスト
この類型は、もっとも典型的なアクティビストであり、物を言う株主と言われる類型です。自らが、積極的に経営サイドと交渉し各種の要求を行う投資家です。株主利益の最大化を目的とし株式価値を引き上げることを目的とします。
このような能動的なアクティビストにも、実は、旧来型のアクティビストと近時の新しいタイプのアクティビストがいます。
- 旧来型のアクティビスト
アクティビストとして、まず連想されるのは、2000年代初頭から2008年のリーマンショックが起きるまでに各種敵対的買収を仕掛けたようなファンドではないでしょうか。彼らは、経営陣への交渉だけではなく、より好戦的に株式公開買い付けや委任状合戦を行い、企業に対し増配や自社株買いを提案します。最終的には、高値で保有株式を売り抜け、短期的な利益を得る目的があったと考えられています。 - 近時のアクティビスト
近時では、好戦的で短期的な利益追求を目的としたアクティビストだけではなく、長中期的な視点から経営陣との対話を重視するタイプのアクティビストも出現しています。新型のアクティビストは、短期的な売り抜けを目的とするものではなく、株主全体の利益を目的とした長中期的な活動を行うために、金融機関などの機関投資家が賛同・同調する可能性があります。機関投資家もまた、投資先企業の中長期的な視座に立って会社価値の向上と機関投資家の背後の顧客らの中長期的利益を求めますから、新しいタイプのアクティビストと機関投資家の目的は一致することになるのです。
3、物を言う株主に対する向き合い方、対策
では、会社としては、株主とどのように向きかっていけばよいのでしょうか。ここでは、能動的・積極的に経営陣と交渉し各種の要求を行うアクティビストを念頭に考えます。
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(1)近時のアクティビストに対する対応
近時の新しいタイプのアクティビストファンドやそれに同調する機関投資家は、中長期的な企業価値の向上という目的があり、経営権とは強硬的な手法ではなく、交渉・対話といった方法をもって活動しています。
このようなタイプのアクティビストに対しては、会社としても、強硬的な手段を用いて対話を拒むことは悪手であり、正面から受け止めなくてはなりません。重要なことはいかにしてアクティビストに対抗するかを考えるのではなく、むしろ早期の段階から自律的・自発的に企業価値を向上させる手段を尽くし、アクティビストに付け入る隙を与えないようにすることです。
つまり、会社が自ら長期的な企業価値の向上に取り組み、その方針を会社からも対話を真摯に行うことでアクティビストに理解してもらうことが重要です。また、こういった対話をするための前提となる情報開示を適切に行うこともまた重要です。 -
(2)旧来型のアクティビストに対する対応
経営陣への交渉のみならず、より好戦的に株式公開買い付けや委任状合戦を行い、企業に対し増配や自社株買いを提案する旧来型のアクティビストにはどのような対応がよいのでしょうか。
やはり、会社としては、強硬的な手法を第1手段とするのではなく、新しいタイプのアクティビストと同様に、対話をベースに対応するべきでしょう。考え方を理解することによって株主提案に対する反論材料を得ることができます。
また重要なのは、自律的・自発的に企業価値を向上させる手段を尽くし、アクティビストに付け入る隙を与えないようにすることと言えます。旧来型のアクティビストの活動が行われる前に、機関投資家や株主との対話を行い、企業価値向上に向けた手段を十分に検討し、実践することです。
アクティビストは、内部留保が多くキャッシュリッチな状態で十分な株主還元ができていない会社、ガバナンスの弱い会社などに狙いを付ける傾向があるとされています。このような経営戦略の問題を日頃から真摯に対応することでアクティビストから狙われる可能性を下げる必要があります。
4、物言う株主対策のため顧問弁護士を雇うべき理由
物を言う株主であるアクティビストは、さまざまなタイプがありますが、最も警戒すべきは豊富な資金力に物を言わせ、株式を相当程度に保有し会社との対決姿勢を見せてくるタイプのアクティビストといえます。
このようなタイプのアクティビストは、株主提案権の行使によって取締役を送り込むなどして、経営権の取得を目指すことがあります。つまり、会社としては、いわゆる買収防衛策の発動も視野に入れて行動する必要があるのです。交渉やレターのやり取りの最初期段階から、株主提案権への適切な法的対応・買収防衛策を発動することもありうることを念頭に弁護士の知見を活用する必要があります。
アクティビストの活動が活発化する有事のときに初めて弁護士に依頼するのではなく、平時から顧問として弁護士と密に連携しておくことが重要です。弁護士にとっても会社理解が深まり、いざとなった時もスムーズな対応が可能となるでしょう。
5、まとめ
アクティビストにはさまざまなタイプがありますが、いまや、会社株式を取得し積極的な提言を行ってくることは珍しいことではありません。
その際には、経営権争いが起き得ることなどを念頭に置き、交渉やレターのやり取りの最初期段階から、弁護士の知見を活用することをおすすめします。
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