社宅制度の基礎知識と会社にとってのメリットとデメリットとは
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2020年10月1日時点の統計によると、千葉市内の給与住宅(※会社や官公庁が給与の一部として与える住宅のこと)に住んでいる世帯は、1万3154世帯でした。
従業員(社員)に対して福利厚生を提供するため、社宅制度を導入する企業が増えています。
節税や社会保険料の軽減などを中心に、会社・従業員の双方にとってメリットがある制度なので、社宅制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
今回は、社宅制度の概要・種類・メリット・デメリット・導入の手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、社宅制度とは|概要・パターン
社宅制度とは、会社が所有し、または借りている物件を、従業員に住居として提供する制度です。
従業員の福利厚生の一環として、多くの企業で採用されています。
社宅制度には、主に以下のパターンがあります。
会社が所有している物件を、従業員に賃貸するタイプの社宅制度です。
② 借り上げ住宅型
会社が選んだ物件の一棟全部または一部の居室をまとめて借り、それを従業員に対して再賃貸(サブリース)するタイプの社宅制度です。
③ 個別契約型
従業員が自分で探してきた物件を会社名義で賃借し、それを従業員に対して再賃貸(サブリース)するタイプの社宅制度です。
2、社宅制度と住宅手当の違い
社宅制度と同じく、住居に関する従業員の福利厚生制度として挙げられるのが「住宅手当」です。
しかし、社宅制度と住宅手当は、税金や社会保険に関する取り扱いの面で大きな違いがあります。
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(1)社宅制度|税金・社会保険料の対象外にできる
社宅制度は、従業員に経済的メリットを与える制度ではあるものの、会社が従業員から以下の金額以上の賃料を受け取っていれば、課税・社会保険料賦課の対象外となります。
<所得税・住民税>
以下の3つの合計額(賃貸料相当額)- ① 当該年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
- ② 12円×建物の総床面積/3.3㎡
- ③ 当該年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
<社会保険料>
都道府県ごとに定められる現物給与価額
※千葉県の場合、1760円×社宅の畳数
(例:30畳(約55㎡)の社宅の場合、月5万2800円)
(参考:「全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)」(日本年金機構)) -
(2)住宅手当|税金・社会保険料の対象になる
これに対して、住宅手当は給与として取り扱われるため、所得税・住民税と社会保険料の対象となります。
会社から従業員に支給される基本給・各種手当・残業代などに、住宅手当の金額も加えたうえで、毎月の源泉徴収税額や社会保険料額が決定されます。
社宅制度に比べると、住宅手当は税金・社会保険料の観点から不利な制度と言えるでしょう。
3、社宅制度を導入するメリット・デメリット
社宅制度を導入することには、会社側・従業員側の双方にとってメリットがあります。
その一方で、留意すべきデメリットもあるため、利害得失を慎重に比較して、社宅制度を導入するかどうかご判断ください。
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(1)会社側のメリット|福利厚生の充実・節税・社会保険料の軽減
会社としては、従業員の福利厚生を充実させられる点が、社宅制度を導入することの最大のメリットです。
社宅制度には、住居に関する従業員の負担を軽減する効果があるため、実質的な待遇の改善につながります。
社宅制度がある会社への入社を希望する新卒者・転職希望者は多いため、求人の面からもプラスに働くでしょう。
また社宅制度は、既存従業員の離職を防ぐ方向にも効果を発揮する可能性があります。
社宅制度で支出したコストは、会社の経費として計上できるため、一定の節税効果も期待できます。
さらに前述のとおり、従業員から一定の賃料を受け取れば社会保険料の賦課対象外となるため、会社が支払う社会保険料負担の軽減にもつながります。 -
(2)会社側のデメリット|コスト・事務負担の増加
その一方で、会社が社宅制度を導入するためには、少なからずコストが発生します。
社有住宅型の場合、物件の取得・維持コストが必要です。
特に、新たに物件を取得する場合には膨大な初期投資が必要なので、既に所有している物件を社宅に転用する方が現実的でしょう。
借り上げ住宅型・個別契約型のように、会社が借りた物件を従業員に再賃貸(サブリース)する場合には、従業員から受け取る賃料を相場よりも低く抑えるのが一般的です。
したがって、会社は基本的に赤字で物件を貸し出すため、毎月資金の流出が発生します。
社宅制度のコストは経費化できるため、税効果によりある程度負担は軽減されますが、それでも一定のコスト負担が発生することは避けられません。
また、社宅制度の導入に伴い、人事担当者などの事務負担が増加する可能性がある点にも、念のため留意する必要があります。 -
(3)従業員側のメリット|家賃負担減・節税・社会保険料の軽減
従業員側にとって、社宅制度の最大のメリットは、家賃負担が実質的に軽減される点です。
社有住宅型・借り上げ住宅型の場合、相場よりも低い賃料が設定されることが多いため、従業員の家賃負担は軽くなります。
これに対して個別契約型の場合、会社負担の賃料が給与から減額され、トータルの待遇は変わらないケースが多いです。
しかし前述のとおり、会社に対して一定の賃料を支払っていれば、社宅の提供を受けていることについては、所得税・住民税と社会保険料の対象外となります。
その一方で、給与の額面は減少するため、税金・社会保険料の負担が軽減されるのです。 -
(4)従業員側のデメリット|物件を選べない場合あり・退職時にはネックに
社有住宅型・借り上げ住宅型では、会社が選んだ物件を借りることになるため、従業員は自由に物件を選べない点がデメリットと言えます(個別契約型の場合は、従業員が自分で物件を選べます)。
また当然ながら、社宅制度は会社に在籍している従業員に限って利用できます。
社有住宅型・借り上げ住宅型の場合、退職の際には社宅を立ち退かなければなりません。
できるだけ生活環境を変えたくない方にとっては、社宅制度があることにより、かえって退職を躊躇してしまう可能性があります。
個別契約型の場合、退職後も同じ物件に住み続けるには、賃貸人の承諾を得て、賃借人の変更を行うことが必要です。
その際、改めて入居審査が行われるほか、税金や社会保険料の負担が増える点にも気を付けましょう。
4、社宅制度を導入する手続きと運用方法
会社が社宅制度を導入する場合、以下の要領で導入手続きと運用を行いましょう。
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(1)社宅制度の設計を検討する
まずは社内のプロジェクトチームなどを主体として、社宅制度の設計を検討しましょう。
社有住宅型・借り上げ住宅型・個別契約型のどれを選択するのか、賃料はどの程度に設定するのかなどについて、メリット・デメリットを総合的に比較しながら決めていきます。
法務・税務面での検討も必要となるので、弁護士や税理士のアドバイスを受けながら検討を行うことをお勧めいたします。 -
(2)取締役会などで社宅制度の導入を決議する
社宅制度の大枠が決まったら、取締役会で審議を行い、社宅制度の導入を決議します。
取締役間での認識の共有を図るため、プロジェクトチームの担当者を取締役会に出席させて、社宅制度の内容を詳しく説明させるのがよいでしょう。 -
(3)社宅制度に関する社内規程を整備する
取締役会決議による承認が得られたら、実際に社宅制度を運用していくため、関連する社内規程を整備しましょう。
物件選定の方法・利用条件・賃料の計算方法など、細かいところまで社内規程でルールを定めます。
既存の社内規程との整合を図る必要もあるため、弁護士のアドバイスを受けながら整備を進めるのがよいでしょう。 -
(4)人事担当者などが運用を行う
社宅制度の運用は、人事担当者が行うのが一般的です。
人員に余力がある場合には、社宅制度専任の担当者を設置するのもよいでしょう。
社宅制度の運用に関しては、法務・税務面の論点を含めて、留意すべき点がたくさんあります。
運用担当者が参照できるマニュアルを整備するとともに、必要に応じて顧問弁護士や顧問税理士との連携を図り、適切に社宅制度を運用できる体制を整備しましょう。
5、まとめ
社宅制度を導入すると、従業員の福利厚生が充実し、人材採用や離職防止の観点からプラスに働きます。
導入によるコスト負担などとてんびんにかけたうえで、メリットが大きいと判断すれば、導入に向けた取り組みをスタートさせましょう。
社宅制度を導入する際には、法務・税務面での詳細な検討が必要不可欠です。
ベリーベスト法律事務所は、弁護士がグループ内税理士と連携して、社宅制度の導入に関する総合的なアドバイスをご提供します。
社宅制度の導入をご検討中の企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています