【企業向け】仕事ができない社員の減給することは可能? 違法になる?
- 労働問題
- 仕事ができない
- 減給
千葉労働局の発表によれば、県内の2020年度の平均の有効求人倍率(原数値)は0.9倍で前年度に比べ0.39ポイント低下しています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、求人が求職を下回るという、やや厳しい現状となっています。
企業が採用を行う場合に、仕事ができると期待していた社員が、想定よりも能力を発揮できないということはよくある話かもしれません。しかし、あまりにも仕事ができず、能力に問題がある場合には、給料に見合った働きをしてもらえないという気持ちから減給もちらついてきます。では、仕事ができないという理由で減給はできるのでしょうか。
本記事では、従業員の能力不足による減給の可否について、弁護士が詳しくご説明します。
1、仕事ができない社員を一方的に減給することはできない
会社が労働者と採用する際に、会社と労働者との間に雇用契約が締結されます。その雇用契約書では、賃金や労働時間などの雇用条件を定めています。
契約は一度締結したら勝手に変更することはできません。給料を減らすということは、雇用契約上の定めを変更するということですが、このような一方的な変更は認められません。
したがって、「会社は従業員に対して減給措置を無断でとることはできない」のが原則です。
ただし、懲戒事由に該当するような事情があり、それが減給相当であると認められる場合などには、懲戒処分としての減給が認められる可能性があります。
他方、「思ったよりも仕事ができない」、「社風に合わない」などの抽象的な理由では、一方的に減給することは認められません。日本では労働基準法により労働者の権利は固く守られています。減給措置は簡単には取れないということをまず理解しておきましょう。
2、現実的に可能な減給処分は?
減給処分を行いたい場合に会社が取れる手段としては、下記のようなものがあります。
-
(1)雇用契約の変更
雇用契約は、会社と従業員の間で採用の時点で取り決めた合意です。
採用後に、採用の時点とは違う事情が出てきた場合には、改めて雇用契を見直し、納得のいく内容で締結し直すこともできます。
契約を見直した後の内容で給与を減額すれば、今後はその給与が適用されます。この手続きを踏めば給与を下げることができます。
ただし、労働契約の変更には従業員側が合意しなければなりません。会社の思うように減額に納得してもらうためには、根気強い説明や交渉が必要となるでしょう。 -
(2)業績給・調整給による減給
就業規則や雇用契約書で、基本給の一部を「業績給」や「調整給」などの業績連動型の費目で支給している会社もあります。
たとえば経営業績が悪化した場合に、連動する「業績給」や「調整給」を減額することで、給与の支払いを減らすことができます。
この制度を使うためには、あらかじめ業績給や調整給による減額の可能性を雇用契約書や就業規則で定めておく必要があります。
また、特定の社員だけを狙い撃ちで減給させることもできないので、使える場面は限られます。 -
(3)人事評価による減給
会社の人事評価規定において、一定の基準の評価に満たない場合に減給することが定められていれば、規定応じた減給が可能です。
仕事の能力不足が気になる場合は、具体的にどの点が不足しているのか本人にできるだけ指摘し、改善方法を含めた指導を適切に行う必要があります。
そのうえで、どうしても改善が認められず一定の基準に満たない場合には、人事評価規定に基づいた減給を行うことになります。
この場合も、雇用契約と就業規則のなかで、人事評価が一定水準に満たない場合には減給になる旨、減給の基準や金額、期間などを明示しておく必要があります。 -
(4)懲戒処分としての減給
能力が低いというだけでは懲戒処分としての減給は困難です。
ただし、幾度となく業務命令に従わず、勤務態度も悪く、職場の士気を下げるなど、著しく業務に悪影響を及ぼすような事態になれば、戒告などの懲戒処分の検討も考えられます。
さらに、懲戒処分が度重なれば、減給などの比較的重い処分を出すことも可能となります。ただし、このプロセスにはかなり時間がかかります。
また、前提として就業規則に減給に関する懲戒処分の定めが明記されていることが必要です。
なお、懲戒処分による減給の場合、1回の減給額は、平均賃金の1日分の1/2を超えてはなりません。また、複数回の減給処分がある場合、減給総額は月額賃金の10分の1を超えてはならないという規定があります。
3、仕事ができないことを理由に降格や配転することは可能?
仕事ができない社員に対しては、降格や配置転換によって減給することも考えられます。
配置転換とは現在とは別の部署などに異動させることであり、降格とは、今与えられている地位役職よりも下の地位役職に変更することです。たとえば、課長を係長にする、マネージャーを平社員にするなどが該当します。
この場合、役職と給与が連動していれば、降格によって給与も減額します。各役所に割り当てられた役職手当が無くなる場合もあれば、等級が下がって減給になる場合もあるでしょう。
降格については、一般的には会社が本来持っている人事権の一部として容認されています。
通常、昇格する場合は、会社がその社員の能力や勤務態度を評価した結果の人事異動です。反対に、現在の地位に応じた能力や勤務態度が認められない場合には、降格もあり得るわけです。
ただ、降格にも相当な理由が必要であり、会社が正当な理由もなく降格させてしまえば、人事権の濫用として無効になる可能性があります。人事権は慎重に行う必要があるのです。また、能力不足を理由とする降格は、本人にとって納得がいかない場合が多いものです。
会社としては、しっかりと本人に指導を行い、現在の地位にふさわしい任務が果たせるように働きかけなければなりません。まずは、任命責任を果たし、それでも、本人に改善が見られず、減給を伴う降格が避けられないと判断された場合には、真摯に説明したうえで降格処分を検討しましょう。
なお、この場合についても、就業規則に、人事評価考課の結果としての降格とそれに伴う減給があることについて明記しなければなりません。
また、職務等級を下げたものの、実質的な職務内容に変化がない場合は、単なる減給目的の降格とみなされてしまう恐れがあり、原則として認められません。
4、社員を減給する場合の注意点
給料は生活の基礎になるものであり、労働条件の本質的な要素です。したがって、減給は従業員にとって大問題です。それだけに減給処分は従業員とのトラブルになりやすいため、慎重な対応が求められます。
では、トラブルを避けるために、会社は具体的にどんな対応をとるべきでしょうか。
-
(1)減給の理由となる社員の言動を正確に記録する
能力不足を理由に減給する場合には、それが正当であることを会社が客観的に説明できる状態でなければなりません。
そのために、減給の理由ともなる従業員の言動や仕事ぶりを記録しておきましょう。さらに、会社がその言動や仕事ぶりに対してどのような指導を行ったかも重要なポイントです。
できるだけ時系列で事情を整理し、きちんと説明できる状態で記録しておく方が安全です。なお、コロナの影響で在宅勤務が増えており、仕事の状況を記録することが以前よりも難しい場合もあります。
プライバシーに配慮しながらも、仕事の進捗(しんちょく)や勤務態度はしっかり記録するように努めましょう。 -
(2)丁寧に説明する
会社と労働者がトラブルになる際に1番欠けているのはコミュニケーションです。
何かが起きたときにどれくらい率直に話し合いができたのかが、トラブル解決の成否を分けるといってもいいでしょう。
ひとりの従業員への減給処分が、職場全体に不安や不信感をもたらし、従業員満足度が低下し、ひいては他の退職者の増加につながります。
成績が悪い従業員と降格や減給の話をするのは気が進まないかもしれませんが、腹を割って積極的に対話することこそが、社員とのトラブルを回避する最良の処方箋となります。 -
(3)法的な手続きを完全に履行する
減給の方法には複数ありますが、いずれの方法をとるにしても法律に定められた手続きをきちんと履行しましょう。
仮に従業員が納得している場合でも、後から紛争になった時に会社側が法的手続きを正しく踏んでいなければ圧倒的に不利になってしまいます。
小さな手続きでも、法の定めに従って適正に順序立てて進めましょう。
もし、手続きに迷いが生じたら早めに弁護士などの専門家に相談することが肝要です。
なお、解雇を目的とした配置転換や降格は違法となる可能性がありますのでその点にも注意する必要があります。 -
(4)減給の上限額に注意する
減給する場合は、法律上の上限に注意しましょう。懲戒処分による減給の場合は、1回の減給額は、平均賃金の1日分の1/2、複数回の減給処分がある場合、減給総額は月額賃金の10分の1という上限規定があります。
超過処分以外の減給では、法律上の上限はありません。しかし、給料は従業員の生活の基盤であり、一般的に言って給与の10%を超える減給は大きな打撃になると考えられています。社員の士気を下げたり、会社全体の雰囲気を悪化させないためにも、減給の額は無理のない範囲にとどめておくほうが望ましいでしょう。
5、まとめ
本記事では、能力不足を感じる社員について減給する方法について、注意点と共に解説しました。
原則として、能力不足だけを理由として一方的な減給は認められません。
ただし、降格や配置転換などの手続きをとれば、それに連動した減給が可能となる場合があります。いずれにしても、雇用契約や就業規則、人事評価制度などがきちんと整備されていることが前提となります。
また、労働関連の法令は頻繁に改正されますので、常に最新の状態に保つためには定期的な見直しも不可欠です。
ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスでは、社員に対する減給についてご不安がある場合はもちろん、適正な就業規則や雇用契約書についても、経験の豊富な弁護士が最新の知識を持っていつでもご相談を承っています。
会社ごとに事情や背景が異なりますので、ご事情をしっかりと伺ったうえで、御社に適したアドバイスや提案を差し上げます。ぜひ一度お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています