他社の利用規約をコピペして作成しても問題ない? 著作権は?
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千葉県のデータによると、2020年における千葉県内の企業倒産件数は232件で、前年比30件の減少となりました。ただし、負債総額10億円以上の大型倒産は4件で、前年比2件の増加となっています。
自社サービスの利用規約(プライバシーポリシー等を含む)を作成する際、手間を省こうとして、他社サービスの利用規約をコピペするケースが散見されます。他社の利用規約をコピペすると、著作権侵害に当たる可能性は低いものの、自社サービスに合わない内容になってしまうおそれがあるので要注意です。
今回は、他社サービスの利用規約をコピペして流用することの問題点や、自社サービスに合った利用規約を作成するための留意点などについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、利用規約をコピペして使用することは著作権侵害に当たるか?
自社サービスの利用規約を作成する際、類似の他社サービスの利用規約が一定の参考になることは事実です。
しかし、他社サービスの利用規約をコピペして使用する場合、著作権侵害に該当しないかどうかは一応検討しておく必要があります。
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(1)著作権(複製権)侵害の要件
利用規約をコピペして使用することについては、著作権のうち、主に「複製権」(著作権法第21条)または「翻案権」(同法第27条)の侵害が問題になり得ます。
複製権侵害・翻案権侵害の要件は、以下のとおりです。① 被侵害物件が著作物であること
「著作物」とは、「思想または感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」(同法第2条第1項第1号)を言います。
著作物性の判断に当たっては、「創作性」の有無が主に問題となります。
② 他人の著作物に依拠して、複製・翻案行為が行われたこと
「依拠」とは、複製・翻案行為が著作物の内容に基づいていることを意味します。
たまたま他人の著作物と似てしまったにすぎない場合には、著作権侵害が成立しません。
他人の著作物への依拠が認められることを前提として、当該著作物をそのままコピーした場合には複製権侵害が成立します。
一方、原著作物を改変したものの、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる場合には翻案権侵害が成立します。 -
(2)利用規約のコピペは、原則として著作権侵害に当たらない
他社サービスの利用規約をコピペして使用することについて、著作権侵害の有無を検討する場合、主に利用規約の「創作性」の有無が問題になります。
「創作性」が認められるには、厳密な意味での独創性までは求められないものの、作成者の何らかの個性が表現されていることが必要です。
この点、利用規約に含まれる記述は、サービス利用のルール等に関する技術的でありふれた内容が大半です。
そのため、利用規約に創作性(=著作物性)が認められ、そのコピペが著作権侵害に該当する可能性は低いと考えられます。 -
(3)利用規約に「創作性」が認められれば、コピペは著作権侵害に当たる
利用規約の内容によっては、その記述に創作性が認められ、コピペが著作権侵害に該当することもあり得るので注意が必要です。
たとえば、東京地裁平成26年7月30日判決では、「疑義が生じないように、同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述している」という点を理由に挙げて、利用規約の創作性(=著作物性)を肯定し、著作権者の損害賠償請求を認めました。
ただし、同判決で認容された損害賠償の金額は5万円に過ぎず、深刻な著作権侵害とは評価できない水準でした。
そのため、利用規約のコピペによる著作権侵害の可能性をあえて強く意識する必要性は低いと考えられますが、このような裁判例もあるということを頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
2、他社の利用規約をコピペして使用することのリスクは?
著作権侵害に当たらないとしても、他社サービスの利用規約をコピペして使用する際には、以下のリスクがあることに注意しなければなりません。
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(1)自社サービスの実態を反映していない可能性が高い
他社サービスの利用規約は、対象の他社サービスの内容・提供方法等を想定して作成されています。
言い換えれば、他社サービスの利用規約が、自社サービスにそのままフィットするとは限りません。
ある程度類似したサービス同士であっても、細かく見れば、その内容・提供方法等は会社ごとにバラバラです。
利用規約の中にも、類似のサービスに共通して必要な規定と、そのサービスだからこそ必要な規定の両方が存在します。
したがって、他社サービスの利用規約をベースに、自社サービスの利用規約を作成する場合、以下の作業が必要となります。- 他社サービス特有の規定を削除する
- 自社サービスに必要な規定を追加する
上記の作業を怠って、他社サービスの利用規約をそのまま使用すると、利用者との間で想定外のトラブルが発生するリスクがあるので要注意です。
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(2)いい加減に改変すると、文言が不明確になるおそれがある
上記のポイントを適切に見極めたうえで利用規約の調整を行うことは、契約実務の専門家でなければ困難です。
利用規約の文言をいい加減に改変してしまうと、- 日本語としての意味が通っていない
- 二重の意味に解釈できてしまう
- 定義語が正しく用いられていない
などの事態が生じ、文言が不明確になってしまうおそれがあります。
他社サービスの利用規約をベースとして、自社サービスの利用規約を作成する場合は、文言調整をきわめて慎重に行わなければなりません。 -
(3)ベースとなる利用規約は、そもそも誰が作成したかわからない
他社サービスの利用規約は、一見しただけでは誰が作成したのかわかりません。
能力のある弁護士が作成したものならある程度信頼できますが、法的な知識に乏しい担当者が、見よう見まねで作成したものである可能性もあります。
ベースとなる他社サービスの利用規約に不備があれば、その不備を適切に解消できない限り、きちんとした利用規約は出来上がらないので注意が必要です。
3、インターネット上の利用規約のひな形は、そのまま利用してもよい?
インターネット上のサイトでは、大まかなサービスの類型を想定した利用規約のひな形が公開されているケースがあります。
ひな形の場合、特定の他社サービスを前提としていないため、他社サービスに特有の規定が盛り込まれていることは少ない点はメリットと言えるでしょう。
しかし、幅広い事業者が利用可能な内容とするため、利用規約のひな形には最低限の規定しか盛り込まれていないケースがほとんどです。
そのため、インターネット上のひな形をベースとして、自社サービスに合った利用規約を作成するためには、大幅な追記が必要になる可能性が高いと言えます。
4、自社サービスに合った利用規約を作成するには?
他社サービスの利用規約や、インターネット上の利用規約のひな形をベースとすること自体が悪いわけではありません。
しかし、自社サービスに合った利用規約を作成するには、以下のポイントに留意した対応が必要となります。
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(1)自社サービスの提供フローを整理する
利用規約には、自社サービスが提供されるフロー(流れ)を想定し、各段階について手順や場合分けなどを書き込む必要があります。
サービスの提供フローは会社ごとに異なるため、ベースとなる利用規約を調整しなければならない部分です。
まずは自社サービスの提供フローを整理し、必要な規定を追加で盛り込みましょう。 -
(2)利用者との間で想定されるトラブルの取り扱いルールを盛り込む
利用者とトラブルになった場合の取り扱いルールは、利用規約の中でも重要な規定です。
実際にトラブルが発生した際、会社が不当に重い損害を被ることがないように、利用規約の文言を調整しましょう。
ただしその際、消費者契約法など、消費者保護法令における強行規定に抵触しないように注意が必要です。 -
(3)弁護士に相談する
サービスの提供フローや、利用者とのトラブルを想定して、自社に合った利用規約を作成するためには、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
弁護士は契約実務に関する知識や経験がありますので、必要なルールを過不足なく、明確な文言により利用規約に盛り込むことができます。
弁護士によってきちんとした内容の利用規約を作成すれば、サービスの提供・利用に関するトラブル発生のリスクや、それに伴う損害のリスクを最小限に抑えられます。
サービス利用規約の新規作成・改定などは、ぜひ弁護士にご相談ください。
5、まとめ
他社サービスの利用規約をコピペして使用することは、著作権侵害に該当する可能性は低いものの、必要な規定に過不足が生じてしまう点で問題があります。
他社サービスの利用規約をベースにすること自体は構いませんが、自社サービスの内容に即した調整を行わなければなりません。
ベリーベスト法律事務所は、利用規約の作成・改定などを含めて、契約実務に関する法律相談を随時受け付けております。
利用規約の作成等について不安のある企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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