専門業務型裁量労働制の導入方法|制度概要・労使協定の内容などを解説
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千葉県の統計によると、2020年の千葉県内の事業所(規模5人以上)における1人平均月間総実労働時間は131時間で、前年比2.8%の減少となりました。
従業員の働き方を多様化させる取り組みの一例として、「専門業務型裁量労働制」の導入が挙げられます。専門業務型裁量労働制を導入すると、会社にとって労働時間の管理が容易になるなどのメリットがあるので、対象となる従業員がいる場合には、導入を検討してみるとよいでしょう。
この記事では、専門業務型裁量労働制の導入方法やメリット・デメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、「専門業務型裁量労働制」とは?
専門業務型裁量労働制とは、一定の要件を満たす労働者について、労働基準法上の労働時間に関するルールの例外を認める制度です。
まずは、専門業務型裁量労働制がどのような制度であるかについて、基本的な知識を押さえておきましょう。
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(1)業務遂行手段・時間配分を労働者に任せる制度
専門業務型裁量労働制では、専門性の高い一部の対象労働者について、業務の遂行の手段および時間配分の決定などを労働者に任せ、自由度の高い働き方を認めます。
専門性の高い労働者の場合、上司がその労働者に対して具体的な指示をするのは難しいケースがあります。
また会社としても、専門性の労働者には、上司からの指示を受けて働くというよりは、「自分で考えて」働いてもらう方が、生産性が上がりやすい側面もあるでしょう。
そこで、このような労働者には「専門業務型裁量労働制」を適用することで、労働者に自由な働き方を認め、実態に合った労務管理が行えるようになるのです。 -
(2)みなし労働時間が適用される
専門業務型裁量労働制が適用される労働者には、いわゆる「みなし労働時間制」が適用されます(労働基準法第38条の3第1項)。
専門業務型裁量労働制における「みなし労働時間」は、後述するように、労使協定によって定められます。
つまり、専門業務型裁量労働制の適用を受ける労働者は、実際の労働時間にかかわらず、常に労使協定で定めた時間の労働をしたとみなされるのです。
なお、「みなし労働時間」が適用されるとしても、「残業代を支払わなくてよい」ことにはならない点に注意が必要です。
たとえば、みなし労働時間が「週45時間」と設定されたとします。
法定労働時間は「週40時間」です(労働基準法第32条第1項)。
したがってこの場合、会社は労働者に対して、超過分の5時間分につき時間外労働手当(25%以上の割増賃金)を支払う必要があります。 -
(3)専門業務型裁量労働制を適用するための要件
会社が労働者に専門業務型裁量労働制を適用するための要件は、労働者の過半数代表との間で労使協定を締結することです。
労使協定で定めるべき事項については後述しますが、規定事項との関係で、以下の各点を満たすことが必須となっています。- 専門業務型裁量労働制の対象業務に該当すること
- 労働者の健康および福祉を確保するための措置を講ずること
- 労働者からの苦情の処理に関する措置を講ずること
2、専門業務型裁量労働制の対象となる業務は?
専門業務型裁量労働制は、「専門性の高い労働者に対して自由度の高い働き方を認める」という制度趣旨から、対象業務が具体的に限定されています。
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(1)専門業務型裁量労働制の対象は、19の業務に限られる
専門業務型裁量労働制の対象業務は、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項および厚生労働大臣の指定によって、以下の19の業務に限られます。
- ① 新商品や新技術などの研究開発業務
- ② 情報処理システムの分析、設計業務
- ③ 記事取材、編集などの業務
- ④ 新たなデザインの考案業務
- ⑤ 放送プロデューサー、ディレクター業務
- ⑥ コピーライター業務
- ⑦ システムコンサルタント業務
- ⑧ インテリアコーディネーター業務
- ⑨ ゲームソフトの創作業務
- ⑩ 証券アナリスト業務
- ⑪ 金融商品の開発業務
- ⑫ 大学教授の業務
- ⑬ 公認会計士業務
- ⑭ 弁護士業務
- ⑮ 建築士業務
- ⑯ 不動産鑑定士業務
- ⑰ 弁理士業務
- ⑱ 税理士業務
- ⑲ 中小企業診断士業務
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(2)「企画業務型裁量労働制」との対象業務の違い
専門業務型裁量労働制と同様に、業務遂行手段や時間配分などを労働者の裁量に委ね、みなし労働時間を適用する制度として「企画業務型裁量労働制」があります。
企画業務型裁量労働制の場合、対象業務は「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」と定められています(労働基準法第38条の4第1項第1号)。
このように、企画業務型裁量労働制の対象業務は、専門業務型裁量労働制とは異なり抽象的に定められているため、理論上はかなり幅広い業務が対象になります。
その反面、労使協定よりも厳しい「労使委員会決議」が必要となるなど、企画業務型裁量労働制を導入する手続きはかなり厳格なものになっています。
3、会社から見た専門業務型裁量労働制のメリット・デメリット
会社にとっては、専門業務型裁量労働制を導入することにはメリット・デメリットの両面があるので、導入時には両者をよく比較検討することが大切です。
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(1)メリット①|労働時間を管理する手間が省ける
専門業務型裁量労働制の場合、みなし労働時間が適用されます。
そのため、残業代を計算するという観点からは、会社が労働者の労働時間を厳密に管理する必要はありません。
労働時間を管理する手間・コストが削減できる点は、会社にとって専門業務型裁量労働制を導入する大きなメリットといえるでしょう。 -
(2)メリット②|支払う賃金の変動を抑えられる
通常の労働者の場合、各月の残業時間に応じて、会社が支払う賃金も変動します。
これに対して、専門業務型裁量労働制が適用される労働者の場合は、みなし労働時間に応じて賃金が支払われるため、基本的に月々の賃金の変動がありません。
そのため会社としては、労働者に支払う賃金額の予測が立てやすいメリットがあります。
ただし、休日労働や深夜労働が発生する場合には、それに対応する割増賃金を追加で支払わなければならないので注意しましょう。 -
(3)デメリット①|導入の手続きが煩雑
専門業務型裁量労働制を導入する際には、必ず労使協定を締結しなければなりません。
そのため、労働者側との交渉の手間が発生するデメリットがあります。
また、労使協定の中では、健康・福祉管理措置や苦情処理措置についての定めを置く必要があるため、実際に各措置を社内で講じなければなりません。
これらの措置を講ずるためのコストも、会社にとっては重い負担になり得るでしょう。 -
(4)デメリット②|労働者が過重労働に陥る可能性がある
前述のとおり、専門業務型裁量労働制を適用する場合、労働時間を管理する要請が薄くなります。
そのことにより、かえって労働者の働きぶりに対して使用者側が無関心となり、結果的に過重労働が発生するおそれがあるので注意が必要です。
一部の労働者に負荷がかかっていることを見落としてしまうと、労働者が心身に不調をきたし、最悪の場合離職につながってしまうこともあるので気を付けましょう。
4、専門業務型裁量労働制を導入する際に労使協定で定めるべき内容
専門業務型裁量労働制を導入するに当たって、もっとも重要な手続きが労使協定の締結です。
労使協定では、労働基準法第38条の3第1項各号に基づき、以下の事項を必ず定める必要があります。
- ① 対象業務の内容
- ② みなし労働時間数
- ③ 対象業務の遂行手段や時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をしないこと
- ④ 労働者の健康および福祉を確保するための措置を使用者が講ずること
- ⑤ 労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が講ずること
- ⑥ 労使協定の有効期間
- ⑦ 健康福祉確保措置・苦情処理措置に関する記録を、労使協定期間中および期間満了後5年間保存すること
特に、④の健康福祉確保措置と、⑤の苦情処理措置については、各事業者が自社の状況に合わせて、措置の内容を検討する必要があります。
各措置の具体例としては以下のものが考えられますので、自社の状況に応じてアレンジを加えたうえで導入してください。
- 代償休日や特別休暇の付与
- 健康診断の実施
- 年次有給休暇の取得促進
- 健康問題についての相談窓口の設置
- 健康状態に応じた配置転換
- 産業医による保健指導
<苦情処理措置の例>
- 苦情処理窓口の設置
- 取り扱う苦情の範囲や処理手順の明確化
5、まとめ
専門業務型裁量労働制を導入することで、会社は労務管理のコストを削減するとともに、多様な働き方を認める職場の風土を醸成することが可能になります。
専門業務型裁量労働制を導入するには、労使協定の締結をはじめとして煩雑な手続きが必要ですが、導入のメリットが大きいと判断した場合は、積極的に導入を検討しましょう。
専門業務型裁量労働制の導入に関してご不明点・ご不安な点がある場合には、一度ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています