名誉毀損に関する刑事・民事上の時効とは? 刑事告訴・損害賠償請求の期限
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千葉県警察のデータによると、2019年中の千葉市内における人口1万人当たりの犯罪発生件数は74.1で、千葉県全体の平均である66.6を上回っています。
ネット上の誹謗中傷などの名誉毀損行為による被害を受けた場合、加害者の刑事告訴や、加害者に対する損害賠償請求などを検討しましょう。
ただし、刑事・民事のいずれについても、名誉毀損には一定の時効期間が設けられているため、早めの対応や弁護士への相談が大切です。
この記事では、名誉毀損に関する刑事・民事上の時効について、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「人口1万人当たりの犯罪発生件数《令和元年中》確定値」(千葉県警察))
1、名誉毀損(きそん)とは?
法律上「名誉毀損」には、刑事上の「名誉毀損罪」と、民事上の不法行為に当たる「名誉毀損」の2種類が存在します。
まずは、民事・刑事それぞれにおける名誉毀損の要件・効果などについて理解しておきましょう。
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(1)刑事上の名誉毀損罪の要件・法定刑
刑事上の名誉毀損罪は、以下の要件をすべて満たす行為について成立します(刑法第230条第1項)。
- ① 公然と事実を摘示(あばき示すの意)したこと
- ② ①によって故意に他人の名誉を毀損したこと
①の「事実の摘示」の要件については、後でも詳しく解説しますが、その事実が実際に正しいかどうかは関係なく、虚偽の事実であっても名誉毀損罪が成立します。
ただし、表現の自由との間で調整を図るために、以下のすべての要件を満たす場合には、「公共の利害に関する場合の特例」が適用され、名誉毀損罪は不成立となります(刑法第230条の2第1項)。
- 当該行為が公共の利害に関する事実に関係すること
- 当該行為の目的が専ら公益を図ることにあったこと
- 摘示した事実が真実であることの証明があったこと
さらに、上記の「真実性」を誤信した場合、誤信をしたことについて「確実な資料、根拠に照らし相当な理由があった」と認められれば、犯罪の故意が否定され、やはり名誉毀損罪は不成立となります(最高裁昭和44年6月25日判決)。
名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。 -
(2)民事上の名誉毀損の要件・効果
民事上の名誉毀損は、「不法行為」の一類型として整理されます(民法第709条)。
名誉毀損的な言動が不法行為に該当するための要件は、以下のとおりです。
- ① 故意または過失があること
- ② 名誉毀損的な言動によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
- ③ ②によって、他人に損害が生じたこと
不法行為としての名誉毀損が成立する場合には、被害者は以下のいずれか(または両方)の方法によって、民事上の救済を受けることができます。
- 加害者に対する損害賠償請求
- 加害者に対して、名誉毀損的な言動を撤回するよう求めるなどの原状回復請求(民法第723条)
2、名誉毀損の成立に必要な「事実の摘示」とは?
刑事上の名誉毀損罪については、「事実の摘示」が犯罪の成立要件となっています。
この「事実の摘示」とは何なのか、具体例とともに解説します。
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(1)事実の摘示がある場合の具体例
事実の摘示に当たる言動の例としては、以下のものが挙げられます。
- AはP大学に裏口入学をした。
- Bは配偶者に隠れてQと不倫をしている。
- C社の経営者であるRは、脱税をしている。
- 飲食店Dは、食品の衛生管理がずさんだ。
- Eには窃盗罪で逮捕された前科がある。
上記はいずれも、発言者自身の感情や評価ではなく「事実」について言及されています。
なお前述のとおり、「事実」は真実である必要はなく、虚偽の事実だったとしても、その摘示によって他人の名誉が毀損されれば、名誉毀損罪が成立します。 -
(2)事実の摘示がない場合の具体例|侮辱罪が成立
これに対して、発言者自身の感情や評価を表現しているにすぎない場合には、「事実の摘示」に該当しません。
事実の摘示に該当しない言動の例としては、以下のものが挙げられます。
- Fはばかだ。
- Gには常識がない。
- 上司Hは前の上司に比べて無能だ。
- Iは尊敬に値しない。
なお、事実の摘示に当たらないこれらの言動であっても、公然と行うことによって他人の名誉を毀損した場合には「侮辱罪」が成立します(刑法第231条)。
侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」であり、名誉毀損罪よりはかなり軽いものとなっています。 -
(3)民事上の名誉毀損には事実の摘示は必須でない
刑事上の名誉毀損罪とは異なり、民法上の不法行為としての名誉毀損の成立要件には、「事実の摘示」は含まれていません。
したがって、言動が「事実の摘示」に当たるか否かを問わず、その言動によって他人に損害を与えた場合には、損害賠償などが認められることになります。
3、名誉毀損の時効は?
名誉毀損には、刑事・民事それぞれについて「時効」が設けられています。
そのため、加害者に対して法的措置を講じたい場合には、早めの対応が必要です。
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(1)刑事上の公訴時効は3年
刑事上の名誉毀損罪については、「3年」の公訴時効が設定されています(刑事訴訟法第250条第2項第6号)。
この公訴時効を経過した場合、検察官は被疑者を起訴することができません。
したがって、被害者が加害者を名誉毀損罪で刑事告訴する期限は、名誉毀損的な言動があった時から3年間となります。 -
(2)民事上の損害賠償請求権等の消滅時効も3年
民法上の不法行為としての名誉毀損に対する損害賠償請求権は、以下のいずれか早く到来する時をもって、時効により消滅します(民法第724条)。
- 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間
- 不法行為の時から20年間
つまり、名誉毀損的な言動を被害者が認識したタイミングから3年以内に損害賠償請求を行う必要があるのです。
なお、消滅時効の完成を阻止するには、加害者から任意の支払いが行われない限りは、訴訟などの方法による請求を行う必要があります。
ただし、内容証明郵便などによる催告を行えば、6か月間消滅時効の完成を猶予することが可能です(民法第150条第1項)。 -
(3)ネット上の書き込みについては早めの特定を
ネット上の書き込みについては、IPアドレスなどを基にして、投稿者を特定する必要があります。
IPアドレスの情報は、投稿先のサイトの管理者に対する発信者情報開示請求によって開示を受けることになります。
しかし、サイト管理者にはIPアドレスに関する情報の保管義務がなく、通常は3か月から6か月程度で削除されてしまいます。
IPアドレスの情報が削除されると、投稿者の特定が極めて困難となります。
そのため、法律上の「時効」とは別に、IPアドレスの保管期限との関係でも、早めの対応が必要といえるでしょう。
4、時効までに加害者を名誉毀損で訴える場合の手続き
名誉毀損に関する刑事・民事上の「時効」が完成する前に、加害者に対して法的措置を講じたい場合、弁護士に相談して以下の対応を取りましょう。
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(1)刑事告訴を行う
加害者に刑事上の制裁を受けてもらいたい場合には、警察などの捜査機関に対して、名誉毀損の被害について刑事告訴を行いましょう。
刑事告訴を受けた捜査機関は、名誉毀損の犯罪事実の有無や訴追の可否について検討するため、捜査を展開します。
捜査機関により、被害者に対する事情聴取も行われるので、その機会に被害者として認識している事実や、被害感情の大きさなどを論理立てて説明することが大切です。
事情聴取への対処法が分からない場合には、弁護士にアドバイスを求めると良いでしょう。 -
(2)損害賠償請求・原状回復請求を行う
名誉毀損によって被った精神的損害などの回復を求めたい場合には、加害者に対する損害賠償請求・原状回復請求を行いましょう。
まずは内容証明郵便を通じて、加害者に対して任意の支払いなどを求めるのが一般的です(前述のとおり、消滅時効の完成を猶予させる効果もあります)。
しかし、加害者が任意の支払いに応じない可能性も高く、その場合には訴訟手続きへと移行せざるを得ません。
訴訟手続きでは、名誉毀損の事実と、それによって被害者が被った損害について、証拠を用いて立証する必要があります。
どのような証拠が必要になるかについては、名誉毀損に関する具体的な事実に照らして、専門的な検討を行ったうえで判断しなければなりません。
名誉毀損に関する民事訴訟に適切に対応するためには、早めに弁護士に相談して、対処方法について協議することをお勧めいたします。
5、まとめ
刑事上・民事上の名誉毀損については、それぞれ公訴時効・消滅時効という形で、被害者が法的措置を講ずることができる期間に制限が設けられています。
そのため、被害者自身が受けた被害を回復するための法的措置を講ずるためには、できるだけ早期に弁護士に相談したうえで、対応に着手することが肝心です。
ベリーベスト法律事務所では、ネット上の書き込みなどによって名誉を毀損され、精神的にダメージを受けてしまった被害者の方を、法律・精神面の両面から厚くサポートしております。
名誉毀損にお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています