同居中でも相手に婚姻費用を請求できる? 離婚前の婚姻費用の基礎知識
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人口動態統計のデータによると、令和元年(2019年)中の千葉市内における離婚件数は1630件で、前年の1579件より51件増加しました。
夫婦の離婚協議において、金銭的な条件として争いになりやすいもののひとつが「婚姻費用」です。
婚姻費用は、離婚にせんだって夫婦が別居する際に精算されるのが通常ですが、同居の場合でも婚姻費用の請求が可能となる場合があります。
本記事では、離婚時の婚姻費用の清算方法について、夫婦が同居したままのケースを中心に、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和元年合計特殊出生率等(確定数)の統計データ」(千葉市))
1、婚姻費用とは?
財産分与や養育費などと比べると、「婚姻費用」は、離婚条件の中では主な争点になることは少ないかもしれません。
まずは、婚姻費用とはどういうものなのかについて、基本的な事項を理解しておきましょう。
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(1)生活費などを夫婦間で公平に分担する
婚姻費用とは、民法第760条では、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定されています。
「婚姻から生ずる費用」には、住居費・生活費・子どもの学費など、夫婦が共同で支出すべきあらゆる費用が含まれます。
これらの費用については、夫婦の収入バランスなどを考慮したうえで、資力に応じてそれぞれが負担しなければならないのです。 -
(2)離婚前に別居するケースが主に想定されている
夫婦が順調に共同生活を送っている段階では、夫婦の間で支出の分担もうまくいっていることが多いので、通常婚姻費用の分担義務が問題になることはありません。
しかし、離婚を検討する段階になると、離婚が成立していないにもかかわらず、夫婦が別居するに至るケースがしばしばあります。
この場合、夫婦間で婚姻費用の分担が行われなくなってしまうことが多いでしょう。
しかし、婚姻関係が継続している以上は、夫婦間の法律上の婚姻費用分担義務は残っています。
そこで、離婚を成立させる際に、婚姻費用の分担が行われていなかった別居期間について、婚姻費用の精算を行うことになるのです。
このように、離婚条件としての婚姻費用は、主に離婚前に夫婦が別居するケースが想定されているといえます。
2、夫婦が同居していると婚姻費用は請求できない?
離婚を考え始めたからといって、その時点で別居するケースばかりではなく、同居のままで離婚協議を進めることも十分考えられます。
この場合、婚姻費用の精算は問題にならないのでしょうか。
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(1)これまでどおり生活費を共同負担しているなら請求は難しい
離婚時の婚姻費用の精算は、夫婦関係がうまくいかなくなったなどの理由により、一定の時期以降、婚姻費用の分担が行われなくなった場合に発生するものです。
したがって、離婚協議を開始したとしても、夫婦の生計は以前と同様の分担を行っているという場合は、相手に婚姻費用を請求することは難しいでしょう。 -
(2)家庭内別居で相手が生活費を支払わない場合は請求可能
これに対して、いわゆる「家庭内別居」のように、物理的に同居はしているものの、夫婦が全く別々の生活をしているような状況であれば、婚姻費用の精算が問題になる可能性があります。
たとえば、離婚協議の開始をきっかけとして、配偶者が全く生活費を渡さなくなった場合などは、婚姻費用の精算が問題になる可能性が高いでしょう。
3、婚姻費用の算出方法|同居の場合は特殊な考慮が必要
婚姻費用は、「資産、収入その他一切の事情」を考慮して、夫婦間の分担が決定されます。
婚姻費用の精算が行われる際に、支払い義務者が実際に支払うべき金額はどのようにして算出されるのかについて見てみましょう。
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(1)裁判所の婚姻費用算定表について
婚姻費用を算定する際は、基本的には裁判所が公表している「婚姻費用算定表」が用いられます。
(参考:「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所))
婚姻費用算定表によると、離婚時に精算される婚姻費用の金額は、以下の要素によって決定されます。- 支払い義務者、権利者の収入バランス
- 子どもの有無、人数
- 子どもの年齢
- それぞれが給与所得者か自営業者か
以下の二つの設例を用いて、実際に婚姻費用の金額を計算してみましょう。
>婚姻費用計算<設例①>
- 子どもなし
- 夫の年収500万円(給与所得者)
- 妻の年収300万円(給与所得者)
「(表10)婚姻費用・夫婦のみの表」を参照すると、婚姻費用の金額は「2~4万円」となります。
レンジの上半分に位置していますので、婚姻費用の相場としては、月額3万円強が目安となるでしょう。
<設例②>
- 子どもふたり(16歳、12歳)
- 夫の年収800万円(自営業)
- 妻の年収0円(専業主婦)
「(表14)婚姻費用・子どもふたり表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)」を参照すると、婚姻費用の金額は「24~26万円」となります。
レンジの中腹に位置していますので、婚姻費用の相場としては、月額25万円程度が目安となるでしょう。
なお、実際の婚姻費用は、婚姻費用算定表によって算出される金額を目安に、離婚協議・調停では交渉によって、離婚訴訟では裁判所の個別具体的な事実認定によって定められます。
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(2)同居時は婚姻費用が減額される可能性あり
ただし、婚姻費用算定表によって求められる婚姻費用の金額は、あくまでも「夫婦が別居していることを前提」として計算されたものであることに注意が必要です。
たしかに同居している場合であっても、家庭内別居のような状態で、生活費などの分担が十分に行われていないのであれば、婚姻費用の精算が発生することはあり得ます。
しかし、同じ建物内に住んでいる場合、たとえば家賃や水道光熱費などは、どちらか一方の口座から毎月引き落とされているケースも多いでしょう。
このように、婚姻費用のうち一部が精算済みと評価できる場合には、その分離婚時に支払われる婚姻費用を減額するなどの調整が行われます。
同居のケースで、婚姻費用算定表に基づく相場金額との間でどの程度差が出るかはケース・バイ・ケースですので、詳しくは弁護士にご確認ください。
4、婚姻費用について相手と合意できない場合の対処法
婚姻費用の金額は、基本的には夫婦間の話し合いによって合意するのが望ましいといえます。しかし、夫婦同士の交渉がまとまらない場合には、以下のように別の手段を検討せざるを得ません。
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(1)弁護士を立てて婚姻費用の請求交渉を行う
夫婦だけで婚姻費用についての話し合いを行って水掛け論になってしまうよりも、弁護士に代理人就任を依頼し、法的な観点から建設的な交渉を行う方が、迅速かつ合理的な問題解決につながりやすいといえます。
なお、弁護士は中立な立場で離婚協議を仲介するわけではなく、あくまでも「依頼者の味方」という立場です。
もし、相手に弁護士が付いていない場合は、ご自身の代理人である弁護士が交渉を主導することにより、婚姻費用の請求交渉を有利に進められる可能性が高いでしょう。
一方、相手にも弁護士が付いている場合にも、ご自身も弁護士を立てることによって、対等な立場で婚姻費用の請求交渉を進めることができます。 -
(2)婚姻費用の分担請求調停を申し立てる
婚姻費用の請求交渉がまとまらない場合、次は裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てることになります。
(参考:「婚姻費用の分担請求調停」(裁判所))
婚姻費用の分担請求調停では、調停委員が夫婦それぞれの言い分を個別に聞き、お互いの妥協点を探りつつ、調停の成立を目指します。
裁判所から提示される調停案は、裁判官や調停委員の心証によってその内容が左右されます。弁護士とともに周到な準備を行い、ご自身の主張を補強する資料を効果的に提出することが求められます。 -
(3)家庭裁判所の審判により婚姻費用の金額が示される
離婚調停は、夫婦双方が調停案に同意しなければ不成立となります。
しかし、このままでは婚姻費用についての紛争が残ってしまうので、紛争解決を図るため、調停不成立の場合は審判手続きへと移行することになっています(家事事件手続法272条4項)。
審判手続きでは、当事者双方に対する審問などの必要な調査が行われた後、家庭裁判所が合理的と考える婚姻費用の金額が「審判」として示されます。
審判へと移行することを見据えた場合、婚姻費用の分担請求調停の段階から、客観的な資料によりご自身の主張を裏付けることが大切です。
そのため、調停申立ての前段階から入念な準備が求められますので、弁護士と綿密な打ち合わせを重ねながら準備を進めましょう。
5、まとめ
夫婦が離婚前に別居せず、同居を続ける場合であっても、生活費などの分担が十分に行われなくなったケースでは、婚姻費用の精算が発生する可能性があります。
ただし、同居にかかる費用をどちらか一方が引き続き負担しているなど、婚姻費用の一部が精算済みと評価される場合は、別居時よりも婚姻費用が減額されることがあるので注意が必要です。
夫婦間で離婚協議がなかなか成立しない場合、離婚条件の面で揉めてしまっている場合などには、弁護士のサポートを得ることにより、問題解決への道筋が開けることがあります。
ベリーベスト法律事務所では、離婚協議・離婚調停・離婚訴訟などのあらゆる手続きについて、依頼者に有利な条件を獲得できるように全面的にバックアップいたします。
これから離婚協議を行おうと考えている方、すでに離婚について揉めてしまっている方は、お早めにベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。
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