財産開示手続で養育費を請求するには? 強制執行や必要な準備を解説

2024年07月01日
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財産開示手続で養育費を請求するには? 強制執行や必要な準備を解説

離婚して養育費の取り決めをしたにもかかわらず相手が支払ってくれないという場合、給与の差し押さえなどのいわゆる「強制執行」という手段があります。

ただし、強制執行をするには相手がどれくらいの財産を持っているか特定する必要があります。このとき、相手の財産状況を確認するために「財産開示手続」を利用できる可能性があります。

この記事では、財産開示手続とは何か、具体的にできること、手続きの方法、養育費を回収するまでの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

1、財産開示手続とは?

  1. (1)財産開示手続の概要

    財産開示手続とは、権利実現の実効性を確保するために、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続きのことを指します

    債務者の財産に対して強制執行を実施するためには、裁判所に強制執行の申し立てをする必要があります。そして、強制執行の申し立てをする際には、債務者のどのような財産を対象とするのかを特定しなければなりません。

    開示義務者(債務者)を財産開示期日に裁判所に出頭させ、債務者の財産状況を陳述させることができます。

    ただし、財産開示手続により債務者の財産が開示されたとしても、開示された給料や預貯金などの財産に対して差し押さえの効力が及ぶわけではないため、債権を回収するためには別途強制執行や担保権執行を行う必要があります

  2. (2)改正により財産開示手続が強化された

    令和2年5月1日から施行されている改正民事執行法では、財産開示手続の見直しが行われ、要件の緩和や罰則の強化が行われました。

    改正以前の財産開示手続は、確定判決など一部の債務名義を取得する場合にしか利用することができませんでした。

    しかし、この改正によって、債務名義の種類によらず、財産開示手続を申し立てられるようになりました(民事執行法第197条)。したがって、公正証書によって養育費の取り決めをしていた場合であっても財産開示手続を利用できるようになったのです。

    また、改正前は不出頭や虚偽の陳述をした場合のペナルティーとして「30万円以下の過料」が課されていました。しかし、これでは強制執行を受けるよりも過料を支払った方が安く済むと考える債務者に対する制裁としては不十分であると指摘されていました。

    そこで、改正法では、不出頭や虚偽の陳述をした場合には、「6月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科されることとなりました(民事執行法第213条1項)。

    さらに財産開示手続の見直しに加えて、今回の改正により債務者以外の第三者から情報を取得することができる手続きが新設されました。

    債務名義を有している場合には、裁判所に申し立てることで、以下のように第三者が保有している債務者の情報の提供を命じてもらうことができます。

    • 預貯金等の情報について:銀行等の金融機関
    • 不動産の情報について:登記所
    • 勤務先の情報について:市町村や年金機構等


    養育費の支払いや生命・身体の侵害による損害賠償金の支払いを内容とする債務名義を有している債権者は、債務者の勤務先に関する情報取得手続きの申し立てをすることができます

    ただし、債務者の不動産と勤務先に関する情報取得手続きについては、それに先立って、債務者の財産開示手続を実施する必要があります。

2、財産開示手続の申し立て方法と必要な準備

  1. (1)申し立ての方法・手続きの流れ

    財産開示手続の申し立ては書面で、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てる必要があります。

    申し立てによって、管轄地方裁判所が適法と判断した場合には、財産開示手続を実施することを決定します。実施決定が確定すると、約1か月後に財産開示期日が指定され、申立人と債務者(開示義務者)が呼び出されます。また、財産開示期日の約10日前までに債務者に財産目録を提出するよう通知されます。

    財産開示期日において、出頭した債務者は財産について陳述しなければなりません。債務者が財産開示期日に出頭しない場合や財産について嘘をいった場合には刑罰が科されることがあります。申立人は、財産開示期日に出頭して、債務者の財産の状況を明らかにするため、裁判所の許可を得て債務者に質問することが可能です。

  2. (2)申し立てられる人・必要な準備

    執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者は、財産開示手続の申し立てができます。

    主な債務名義の例は、以下のとおりです。

    • 執行文が必要なもの:公正証書正本、判決正本、和解調書正本
    • 執行文が不要なもの:家事調停調書正本


    家事審判書正本の場合は、執行文は不要ですが確定証明書が必要になります。また、養育費や婚姻費用だけでなく、解決金や慰謝料分もあわせて請求するときも、執行文が必要になります。

    原則としては、執行文の付与が必要となりますので、「債権者〇〇は債務者〇〇に対し、この債務名義により強制執行することができる」等と書かれた用紙が付いているかどうか確認してください。債務名義正本の発行や執行文の付与は債務名義を作成したところ(家庭裁判所や公証人役場)で行います。

    財産開示手続に必要となる書類は以下のようなものです。

    • 財産開示手続申立書
    • 執行力のある債務名義の正本及びその写し
    • 当事者目録
    • 請求債権目録
    • 財産調査結果報告書
    • 債務名義等還付申請書
    • 戸籍謄本または住民票

3、財産開示手続後の強制執行の手続と養育費を回収する流れ

財産開示手続によって債務者の財産が開示されたとしてもその財産に対して差し押さえの効力が及ぶわけではありません。実際に債権を回収するためには別途強制執行を申し立てる必要があります

養育費の支払いを受けるために用いられることが多いのが、債権執行です。債権執行とは、支払いを受けられていない人(債権者)の申し立てに基づいて、裁判所が債権差押命令を出し、給与債権や預貯金債権など債務者が持っている債権を差し押さえて、その中から強制的に支払いを受けるための手続きです。

債権執行をすることによって債権者は、差し押さえられた債務者の給料であれば債務者の勤務先から、債務者の預貯金であれば金融機関から受け取ることができるようになります。

強制執行の申し立ては、以下のような必要書類を債務者の住所を管轄する地方裁判所に提出する必要があります

申立書 表紙、当事者目録(当事者と差し押さえる相手の住所等)・請求債権目録(差し押さえる債務名義の目録)、差押債権目録(差し押さえる相手の財産目録)。ひな形や記載用の書類は、裁判所のホームページからダウンロードが可能です。
債務名義の正本 養育費について定めた調停調書、審判書、和解調書、判決書、公正証書。いずれも正本が必要です。
送達証明書 債務名義の正本が債務者に送付されたことの証明書です。送達されていない場合には、債務名義を作成された家庭裁判所や公証人役場に送達申請をする必要があります。
申立手数料 債権者1人、債務者1人、債務名義1通の場合には4000円分の収入印紙を申立書に貼付することになります。
郵便切手 郵便切手を申立書に同封する必要があります。
第三債務者の資格証明書 法人(会社)に勤務する債務者の給料や、債務者の預貯金の差し押さえの場合、そのような第三債務者の本店の住所、会社名、代表者氏名が分かる商業登記事項証明書または代表者事項証明書の提出を求められるのが一般的です。

給与債権の差し押さえの場合、給料の4分の1を回収することができます。また、税金等を控除した後の給与が66万円を超える場合には、その手取りから33万円を引いた金額をすべて差し押さえることができます。

4、養育費の未払いに関するトラブルは弁護士へ相談を

未払いの養育費を回収する場合は、まずは弁護士にご相談ください。

養育費を回収するためには強制執行をすることが有効な手段ですが、その他にも、裁判所の支払督促や履行勧告・履行命令といった制度を利用して回収する方法はありますご自身のケースでどのような手続きをとるのがよいのか、弁護士に相談することで適切なアドバイスを受けることができます

また、相手方の財産を調査する方法については、この記事で解説した財産開示手続のほかに弁護士会照会などの制度もあります。弁護士に相談・依頼することで、これらの制度を利用できる可能性もあります。

また弁護士は、裁判対応や当事者間の連絡、書類作成や確認も依頼人の代理として対応できるため、さまざまな負担が大幅に軽減されるでしょう

5、まとめ

養育費が支払われない場合には、財産開示手続を利用することで、相手方の財産を開示させ強制執行によって養育費を回収できる可能性が高まります。

ただし、制度の利用にはさまざまな書類作成や手続きが発生しますので、弁護士に任せるのが得策といえます。

養育費の受け取りについてお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士にご相談ください。当事務所には、離婚や養育費トラブルの解決実績がある弁護士が在籍しております。まずは一度お話をお聞かせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています