個人再生で退職金への影響は? 個人再生における退職金の取り扱い

2022年12月22日
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個人再生で退職金への影響は? 個人再生における退職金の取り扱い

裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に千葉地方裁判所に申し立てのあった、小規模個人再生事件の件数は617件、給与所得者等再生事件の件数は42件でした。

借金を整理するために個人再生の利用を検討している方の中には、今勤めている会社の退職金がどのように扱われるのか気になっている方もいるでしょう。将来もらうことができる退職金についても本人の財産として扱われますので、退職金の金額によっては、借金の減額幅や個人再生の利用の適否が変わってきます。

今回は、個人再生における退職金の取り扱いについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

1、個人再生によって退職金が没収されることはない

個人再生と同じく債務整理の手続きの一種である自己破産は、一定額以上の資産を有している場合には、すべて没収され、債権者への配当にまわさなければなりません。そのため、自己破産と同様に個人再生も資産が没収されてしまうと誤解されている方がいるようです。

しかし、個人再生の場合には、退職金だけでなく他の財産が没収されてしまうという心配はありません

ただし、個人再生には、返済額を判断する基準として「清算価値」というものがありますので、退職金がある場合には、清算価値に影響することになります。清算価値の詳細は次章で詳しく説明しますが、高額な退職金があるという場合には、清算価値も高くなり、個人再生によって返済しなければならない金額が高くなってしまうというリスクがあります。

2、個人再生における退職金の取り扱い

個人再生では、退職金はどのように扱われるのでしょうか。

  1. (1)清算価値に計上される

    個人再生は、借金総額を大幅に減額して、分割で返済をしていく手続きになります。その場合の返済額を決める基準には、「最低弁済額基準」、「清算価値基準」、「可処分所得基準」という3つの基準があります。

    最低弁済額基準とは、借金総額に応じて決まっている最低限返済しなければならない金額のことをいいます。清算価値基準とは、債務者本人が持っている財産を処分した場合の金額のことをいいます。可処分所得基準とは、給料などの収入から税金や最低限の生活費を差し引いた金額のことをいいます。

    個人再生では、最低弁済額、清算価値、可処分所得の2年分の金額を比較して、最も高い金額を返済していかなければなりません

    たとえば、借金の額が300万円の場合には、最低弁済額は100万円となりますが、200万円の清算価値を有する資産がある場合には、個人再生で返済をしなければならない弁済額は、200万円となります。このように退職金がある場合には、返済額を決める際の清算価値に影響を及ぼすことになります。

  2. (2)清算価値に含める退職金の評価方法

    退職金は、清算価値に計上されることになりますが、個人再生の認可決定時までの状況によって、清算価値に計上される退職金の金額が異なってきます。

    以下のように、退職する予定がない段階で個人再生の申し立てをした方が清算価値に計上される金額が少なくなりますので、個人再生の利用を検討している場合には、退職金を受け取る前に早めに申し立てをするとよいでしょう。

    1. ① 退職する予定がない場合
      退職する予定がない場合には、退職金見込額の8分の1を清算価値に計上します。退職金が実際に生じるかどうかが不確実な状況であることから、清算価値に計上する金額が低く抑えられています。
    2. ② 退職したものの退職金を受け取っていない場合(近い将来退職する場合)
      退職したものの退職金を受け取っていない場合または近い将来退職する場合には、退職金見込額の4分の1を清算価値に計上します。4分の1とされているのは、残りの4分の3が差押え禁止債権とされているからです。
    3. ③ 退職して退職金を受け取っている場合
      退職して退職金を受け取っている場合には、すでに現金や預貯金として手元に存在していることになりますので、現金または預貯金として全額が清算価値に計上をします。
      なお、現金の場合には99万円未満、預貯金の場合には20万円未満であれば清算価値に計上されることはありません。
  3. (3)清算価値に計上されない退職金

    会社によっては、退職金の代わりに以下のような制度を採用しているところもあるでしょう。

    • 確定拠出年金
    • 確定給付企業年金
    • 厚生年金基金
    • 中小企業退職金共済法に基づく退職金
    • 社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職金
    • 小規模企業共済制度に基づく退職金


    これらの資産については、全額が差押え禁止財産とされていますので、清算価値に計上されることはありません

3、個人再生には退職金を証明する「退職金見込額証明書」が必要

退職金を受け取る前に個人再生の手続きを利用する場合には、「退職金見込額証明書」が必要になります。

  1. (1)退職金見込額証明書の取得方法

    退職金見込額証明書は、勤務している会社にお願いをして発行してもらいます。退職金見込額証明書の発行を依頼すると「個人再生をすることが会社にバレてしまうのでは?」と不安になる方もいるでしょう。

    しかし、退職金見込額証明書は、個人再生の手続き以外にもさまざまな用途で利用されるものですので、退職金見込額証明書の発行を依頼したからといって、個人再生がバレることはありません。

    会社から退職金見込額証明書の使途を聞かれた場合には、「老後の資金計画の参考のため」などといえば問題ないでしょう。

  2. (2)退職金見込額証明書が取得できない場合

    会社から退職金見込額証明書を発行してもらうことができないという場合には、ご自身で退職金見込額を計算する方法によって、退職金見込額証明書に代えることができます。

    その際には、以下の資料が必要になります。

    • 雇用契約書
    • 就業規則
    • 退職金規程


    具体的な計算方法については、勤務先によって異なりますが、一般的には「退職時の基本給×勤続年数×支給率」といった計算式によって計算をします。

    計算方法がわからないという場合には、個人再生を依頼した弁護士に資料を持参して計算をしてもらうとよいでしょう。

  3. (3)退職金がない場合には必要ない

    会社によっては退職金制度がないというところもあります。そのような場合には、退職金見込額証明書は必要ありません。

    しかし、退職金がないということを証明する必要がありますので、退職金制度がないことが確認できる就業規則や雇用契約書などを裁判所に提出しなければなりません。

4、退職金により弁済額が高額になるときは他の債務整理を検討する

退職金によって弁済額が高額になる場合には、個人再生をするメリットがあまりありませんので、他の債務整理を検討する必要があります

  1. (1)任意整理

    任意整理とは、債権者との交渉によって将来利息のカット、毎月の返済額の減額などを求めていく方法です。個人再生とは異なり、裁判所を通さずにできる債務整理ですので、柔軟な対応が可能という特徴があります。

    債務者本人に退職金があったとしても、任意整理の返済額には影響を及ぼすことはありません。また、特定の債権者のみを債務整理の対象にするといったこともできます。ただし、あくまでも交渉による債務整理となりますので、個人再生のような借金額を大幅に減額することができる法的効果まではありません。

    そのため、多額の借金があり、返済回数を増やしたとしても、完済の見込みがないというケースでは任意整理は不向きといえるでしょう。

  2. (2)自己破産

    自己破産とは、裁判所に申し立てをして免責決定を得ることによって、借金の返済義務が法律上免除されるという方法です。

    自己破産によって借金をゼロにすることができるため、借金問題を根本的に解決することができる方法ですが、高額な資産を有している場合には、それを手放さなければならないというデメリットもあります。

    退職金がある場合には、以下の方法によって計算をした金額が没収されることになります。

    • 退職する予定がない場合:退職金見込額の8分の1
    • 退職したものの退職金を受け取っていない場合(近い将来退職する場合):退職金見込額の4分の1
    • 退職して退職金を受け取っている場合:全額
      ただし、自由財産の拡張を申し出ることによって、99万円までの退職金については手元に残すことができる可能性もあります。
  3. (3)最適な債務整理の方法を知るためにもまずは弁護士に相談を

    退職金がある場合には、どのような債務整理を選択すればよいか非常に難しい判断となります。債務整理の方法にはそれぞれメリットとデメリットがありますので、それらを踏まえて最適な債務整理を選択することが重要となります。

    そのためには、借金問題に詳しい弁護士に相談をすることが大切です。弁護士に相談をすることによって、最適な債務整理の方法を提案してもらうことができますので、借金問題でお困りの方は、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

5、まとめ

退職金がある場合には、個人再生における返済額に影響を及ぼす可能性がありますので、個人再生の利用を検討されている方は、退職金の金額やその他の財産の額などを踏まえて慎重に判断する必要があります。

どのような債務整理が適しているかを判断するのは個人では難しいといえますので、まずは債務整理の実績がある弁護士に相談をすることをおすすめします。個人再生の利用をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています