特定調停とは? 申し立て後の流れや任意整理との違い・比較を解説

2022年08月22日
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特定調停とは? 申し立て後の流れや任意整理との違い・比較を解説

東京商工リサーチのデータによると、千葉県内における2022年上半期(1~6月)の倒産件数は93件で、前年同期比9%の減少となりました。しかしながら、5月以降は倒産件数が増加しており、今後の倒産動向が懸念されています。

破産・民事再生・任意整理などと並ぶ債務整理の手法のひとつとして「特定調停」があります。特定調停は、任意整理などと比べるとデメリットが多いため、現在ではあまり使われていません。とはいえ、これから債務整理を行う際には、特定調停もひとつの選択肢として、その内容を理解しておきましょう。

この記事では、特定調停の流れやメリット・デメリットなどについて、任意整理との比較を交えながら、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「千葉県内の1~6月倒産件数9%減、足元は増加 民間調べ」(日本経済新聞))

1、特定調停とは?

「特定調停」は、個人や事業者が債務の支払いが困難な状態になった場合に、債務負担を軽減できる「債務整理」の方法のひとつです。

  1. (1)簡易裁判所で行われる債務整理の手続き

    特定調停は、簡易裁判所における「調停」手続きとして行われます。

    特定調停では、裁判官と調停委員が間に入り、債務の減額や返済スケジュールの見直しについて、当事者同士の交渉・調整が行われます

    特定調停が成立すれば、将来利息のカットや返済期間の延長によって、月々の返済負担が軽くなることが多く、債務者としては苦しい生活や財務状況の再建のきっかけにすることができます。

  2. (2)特定調停と任意整理の違いは?

    特定調停は、債権者と個別に交渉・調整を行うことによって債務負担を軽減する点で、「任意整理」と似ています。

    特定調停が任意整理と決定的に異なるのは、裁判官と調停委員が仲介者として参加する「公的な手続き」である点です
    債権者・債務者同士の交渉では強硬な態度をとっていた債権者も、裁判官や調停委員に諭されることで態度を軟化させる可能性があります。

    ただし、特定調停は公的な手続きであることの裏返しとして柔軟性に欠ける部分もあり、後述するように多くのデメリットが存在します。
    そのため、実際には任意整理と比べると、かなり実施件数が少なくなっています。

2、債務者から見た特定調停のメリット・デメリット

債務者の立場として、特定調停を申し立てることには、以下のメリット・デメリットが存在します。
どちらかというとデメリットの方が多く、また他にも任意整理などの柔軟な手続きが用意されているため、特定調停はあまり利用されていないのが実情です。

  1. (1)【メリット】裁判所を通じて冷静・公平な債務整理の交渉が可能

    裁判官や調停委員が交渉を仲介してくれることは、冷静・公平な交渉が可能になる観点からメリットがあるといえるでしょう。

    特に任意整理の交渉の中で、債権者が強硬な姿勢を崩さない場合などには、特定調停へと場を移すことも有力な選択肢となります。

  2. (2)【デメリット①】手続き後に債務不履行が起こるとすぐに強制執行

    特定調停が成立した場合、調停条項が記載された調停調書の記載は、裁判上の和解と同一の効力を有します(特定調停法第22条、民事調停法第16条)。

    これは、調停条項の内容のとおりに返済が行われない場合には、調停調書を債務名義として直ちに「強制執行」の手続きへと移行できることを意味します。

    任意整理であれば、返済が難しい場合には再度債権者と交渉する余地があることに対して、特定調停の場合には再度の交渉の余地はほとんどない点が、債務者にとってはデメリットといえるでしょう。

  3. (3)【デメリット②】過払い金の返還は別途合意が必要

    特定調停では、あくまでも将来の返済に関するリスケジュールの合意のみが行われます。

    これに対して、これまでに過払い金が生じている場合には、特定調停の手続き内で過払い金の返還について合意することはできません

    したがって、過払い金の返還については別途債権者と合意する必要があり、二度手間となってしまいます。

  4. (4)【デメリット③】債務者本人が手続きに臨む必要がある

    特定調停の場合、債務者本人が期日に出席し、自ら交渉を行うことが原則です。

    期日当日は調停委員のサポートを受けることができるので、債務者にとって調停結果があまりにも不利になることは考えにくいですが、手続きの進行に関する時間的・精神的な負担がかかってしまうことは避けられません。

    この点任意整理であれば、弁護士に債権者との交渉を全面的に任せることができるため、債務者の負担はかなり軽減されます。

3、特定調停の進め方・手続きの流れ

特定調停手続きのおおまかな流れについて解説します。
実際に特定調停スキームによる債務整理を行う際の参考としてください。

  1. (1)特定調停の申し立て

    まずは、簡易裁判所に対して特定調停の申し立てを行います。
    管轄となるのは、債権者の住所・居所・営業所または事業所の所在地の区域を受け持つ簡易裁判所です。

    個人が特定調停を申し立てる場合、必要書類は以下のとおりです。

    • 特定調停申立書 2部(正本・副本)
    • 財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料 1部
    • 関係権利者一覧表 1部
    • 申立手数料(収入印紙) 相手方1人(1社)あたり500円
    • 予納郵便切手 相手方1人(1社)あたり430円
    • 債権者の資格証明書 1部


    (参考:「特定調停申立てQ&A」(裁判所))

    その他にも書類の提出を求められる場合がありますので、詳しくは簡易裁判所の窓口でご確認ください。

  2. (2)調査期日(債務者のみ参加)

    特定調停を申し立てると、1か月後をめどに「調査期日」が設定されます。

    調査期日では、調停委員から債務者に対して、資産・収入・返済状況などに関する事情聴取が行われます。そして、債務者から聞き取った情報を基にして、返済計画案が作成されます

  3. (3)調停期日(債権者・債務者が参加)

    調査期日からさらに1か月後をめどとして、「債権者も参加」のうえで返済計画を話し合う「調停期日」が行われます。

    調停期日では、調停委員が債権者・債務者双方の意見を聞きながら、返済計画の詳細を調整し、当事者双方にとって受け入れられるような内容へと仕上げていきます。

  4. (4)調停調書の作成または17条決定

    新たな返済計画について、債権者・債務者双方の同意が得られた場合には、特定調停は成立となり、その内容が調停調書に記載されます

    一方、新たな返済計画についての合意が成立しない場合であっても、債権者・債務者双方が共同で申し立てる場合には、調停委員会の判断で適宜調停条項が定められます(いわゆる「17条決定」。特定調停法第17条第1項)。

4、最適な債務整理の方法を選択するには?

債務者の状況によっては、破産・民事再生(個人再生)・任意整理など、特定調停よりも適した債務整理の方法が存在する可能性は大いにあります。
債務者の状況に応じて適切な債務整理の方法を選択するには、以下のポイントに留意しましょう。

  1. (1)債務額・債権者数・資産・収入額などを分析する

    どの債務整理の方法が適しているかは、債務額・債権者数・資産・収入などの個別事情によって異なります。

    たとえば債務額が巨額であり、債権者数も多く、到底債務を返済できる見込みが立たない場合には、自己破産を選択するのが第一の選択肢となります。

    一方、収入が比較的安定しており、月々の返済額を軽減できれば完済の目途が立つという場合には、任意整理によって小規模な債務整理を行うというのも有力な選択肢です。

    このように、適切な債務整理の方法を選択するためには、債務者自身が置かれている状況を正確に分析し、複数の債務整理手法を比較・検討することが大切になります。

  2. (2)弁護士に相談して検討する

    債務整理の各手法にはそれぞれ特徴・メリット・デメリットが存在し、これらを適切に比較・検討するためには、専門的な知識や観点が要求されます。
    そのため、最適な債務整理の方法を選択するためには、弁護士のアドバイスを求めることも有効です。

    弁護士は、依頼者の相談内容を踏まえて、いくつかの債務整理の方法の中から、もっとも適切な方法を提案します。

5、まとめ

特定調停は、裁判官・調停委員の仲介によって債務負担を軽減できる制度ですが、債務者にとっては柔軟性に欠けるなど、いくつかのデメリットもあり、任意整理などと比べるとあまり利用されていません。

実際に債務整理を行う際には、特定調停以外にも、破産・民事再生(個人再生)・任意整理などの方法があることを踏まえて、債務者自身の状況にマッチした方法を選択することが大切です。

ベリーベスト法律事務所では、債務整理を専門的に取り扱うチームが、依頼者のお話を丁寧に伺う中で、メリットの大きな債務整理の方法をご提案いたします。

借金の返済にお悩みの方、債務整理についてご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています