少額管財とは? 費用面のメリット・利用要件・手続きの流れなどを解説
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帝国データバンクの調査によると、2020年中の千葉県内企業の法的倒産件数は227件でした。
破産手続きを行う際には、裁判所に納付する予納金がネックになります。しかし、「少額管財」を利用できれば、破産者が予納金を納付する負担を大きく軽減することができます。
この記事では、破産手続きにおいて少額管財を利用するメリット・利用要件・手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「千葉県内の「休廃業・解散」動向調査(2020年)」(帝国データバンク))
1、少額管財とは?
少額管財とは、破産管財人が主導して、通常管財(特定管財)よりも簡略化された形で行われる破産手続きをいいます。
破産手続きには「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類があります。
破産手続き開始決定と同時に、手続きが終了します。処分すべき財産がない個人破産事件などに限られる、例外的な取り扱いです。
● 管財事件
破産管財人により、破産財団の管理・処分および債権者に対する配当が行われます。
個人事業主や法人が破産する場合、ほぼ確実に管財事件として取り扱われます。
しかし、管財事件において破産管財人がフルパッケージで業務を行う場合、かなりの時間と費用が掛かってしまいます。
そこで、一部の裁判所では「少額管財」という運用が行われており、管財事件における手続きの一部を簡略化することで、時間と費用を節約できるようになっています。
2、少額管財のメリット
少額管財手続きのメリットは、①予納金額を減らせることと、②手続きにかかる時間が短くなることの2点です。
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(1)予納金が少額で済む
裁判所が破産手続き開始の決定をするには、予納金が完納されることが要件となっています(破産法第30条第1項第1号)。
たとえば東京地裁における管財事件の場合、予納金は以下のように設定されています。負債総額 予納金の金額 5000万円未満 70万円(個人は50万円) 5000万円以上1億円未満 100万円(個人は80万円) 1億円以上5億円未満 200万円(個人は150万円) 5億円以上10億円未満 300万円(個人は250万円) 10億円以上50億円未満 400万円 50億円以上100億円未満 500万円 100億円以上250億円未満 700万円 250億円以上500億円未満 800万円 500億円以上1000億円未満 1000万円 1000億円以上 1000万円以上
このように、負債総額が大きくなればなるほど、予納金は高額になってしまいます。
これに対して、少額管財の場合は、予納金は負債総額にかかわらず20万円程度になります。
上記の通常の予納金額と比べると、少額管財の予納金はかなり低額で済むことがわかるでしょう。 -
(2)手続きが簡易・迅速
少額管財事件では、通常の管財事件(特定管財)よりも簡略化されているため、手続きにかかる時間が短縮されます。
特定管財の場合は1年前後の期間がかかるケースが多いのに対して、少額管財の場合は平均6か月程度です。
破産者が早期に経済的更生を成し遂げ、新たなスタートを切るためには、少額管財を利用するメリットは大きいと言えるでしょう。
3、少額管財による破産手続きの流れ(東京地方裁判所の例)
少額管財として取り扱われる破産事件が、申し立てから終結に至るまでの流れを概観しましょう。
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(1)破産手続き開始の申し立て
破産手続き開始の申し立ては、地方裁判所に対して行います。
申立先は、債務者が営業者である場合は主たる営業所の所在地、営業者でない場合は普通裁判籍の所在地(通常は住所地)を管轄する地方裁判所です(破産法第5条第1項)。 -
(2)債務者審尋
破産手続き開始の申し立てが受理された後、裁判所において、債務者に対する審尋(面談)が行われます。
債務者審尋で質問される事項の例は、以下のとおりです。- 債権者の数
- 財産の内容
- 負債の内容
- 破産申し立てに至った経緯
- 事業内容(営業者の場合)
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(3)破産手続き開始決定
破産手続き開始の要件を満たしている場合、裁判所によって破産手続き開始の決定が行われます(破産法第30条第1項)。
破産手続き開始の要件は、以下のとおりです。① 以下のいずれかに該当すること
- 債務者が支払い不能にあること(破産法 第15条第1項)
- 債務者が債務超過であること(破産法 第16条第1項。合名会社・合資会社以外の法人のみ)
③ 不当な目的によるなど、破産手続き開始の申し立てが不誠実になされた場合ではないこと(破産法 第30条第1項第2号) -
(4)債権調査・財産の換価処分・免責不許可事由の調査
破産手続き開始決定が行われると同時に、裁判所により破産管財人が選任されます。
破産管財人は、主に以下の業務を行います。① 債権調査
裁判所は、破産手続きを通じた配当の対象となる債権を確定するため、債権者や債権額に関する調査を行います。破産管財人は、把握した債権者を裁判所に伝え、その内容を「破産債権者表」に記載してもらいます(破産法第116条第1項など)。
② 破産財団の換価・処分
破産者が破産手続き開始決定の時点で所有している財産を換価・処分し、債権者への配当の原資とします。
③ 免責不許可事由の調査
破産者が個人の場合、破産手続きの後に免責手続きを行い、免責の可否を判断することになります。その前提として、破産管財人が免責不許可事由(破産法第252条第1項)の有無について調査を行い、裁判所が免責の可否を判断するための情報を収集し、裁判所に提供します。 -
(5)債権者集会・配当
破産手続き開始決定から3か月程度が経過した段階で、債権者集会が開催されます。
債権者集会は、破産財団の換価・処分状況や、配当の見通しなどについて、債権者に対する情報共有を行うことを目的としています。
破産手続きの状況説明は、主に破産管財人によって行われます。
簡易な事件であれば1回のみの開催となりますが、換価・処分が長引いている場合には、複数回の債権者集会が開催されることもあります。
破産財産の換価・処分が完了した段階で、各債権者に対する配当が行われます。 -
(6)免責審尋・免責に関する決定
破産者が個人の場合や、法人破産と同時に経営者の破産も申し立てられている場合には、裁判所による「免責審尋」が開かれます。
免責審尋では、まず免責不許可事由(破産法第252条第1項)の有無が確認されます。
裁判所は破産管財人の調査結果を前提として、債務者への確認を行ったうえで、免責不許可事由の有無について判断します。
ここで免責不許可事由がなければ、免責が許可されることになります。
これに対して、免責不許可事由がある場合には、裁判所が裁量免責(破産法第252条第2項)の可否について判断します。
裁量免責の可否は、破産に至った経緯や反省状況など、破産者の更生可能性を総合的に考慮して決定されます。
そのため、免責審尋における破産者の質問回答の内容が重要となります。
免責審尋の後、裁判所は免責の可否に関する決定(許可or不許可)を行います。
もし免責が許可された場合、2週間の即時抗告期間を経て免責許可決定が確定します(破産法第9条)。
4、少額管財を利用する際の注意点
少額管財には、債務者(破産者)にとって多くのメリットが存在する一方で、利用を試みる際には、以下の各点に注意する必要があります。
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(1)複雑な破産事件では利用できない
少額管財は、通常の管財事件(特定管財)における手続きを簡略化した手続きです。
そのため、債権者がきわめて多数であるなど、複雑な破産事件の場合には基本的に利用できず、特定管財として取り扱われてしまうので注意しましょう。 -
(2)少額管財を運用していない裁判所もある
少額管財の運用を行っているかどうかは、申立先の裁判所によって異なります。
たとえば東京地裁や大阪地裁などでは、少額管財の運用が行われています。
これに対して、大都市圏以外の地域の地方裁判所では、少額管財の運用が行われていないところも存在します。
申立先が少額管財の運用を行っていない場合、自動的に特定管財となってしまうため注意が必要です。 -
(3)弁護士による代理人申し立てが必須
少額管財によって手続きを簡略化する前提として、弁護士による代理人申し立てが必須とされています。
破産管財人が対応を開始する前に、代理人弁護士がある程度の交通整理を行うことによって、少額管財のような簡略化した手続きによる処理が可能となるからです。
弁護士に依頼する場合、弁護士費用がかかりますが、少額管財によって予納金が抑えられることや、手続きの手間などを考えると、トータルでは依頼するメリットが大きく上回ると考えられます。
5、まとめ
少額管財を利用することによって、破産時の予納金負担を軽減し、かつ破産手続きにかかる時間を短縮することが可能です。
少額管財を利用するためには、弁護士による代理人申し立てが必須となりますので、破産手続き開始の申し立てを弁護士に依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、債務整理を多く取り扱うチームが、円滑な破産手続きの完了・免責の実現をサポートいたします。
債務負担の大きさに悩み、自己破産手続きや法人破産手続きをご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。
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