動画付公正証書遺言の作り方は? 法的な効力はどれぐらいあるのか
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- 動画付公正証書遺言
2021年度に千葉家庭裁判所が受理した家事審判事件は1万3855件で、そのうち遺言書の検認は334件でした。
遺言書を作成するに当たって、相続時のトラブルを避けるには、公正証書遺言を選択するのがよいでしょう。また、公正証書遺言の内容を考える様子を動画撮影しておけば、遺言能力があったことの証拠として利用できます。ただし、動画だけでは遺言書の代わりにならない点には注意が必要です。
本記事では動画付公正証書遺言の作り方や、遺言書の作成サポートを弁護士に依頼すべきケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
出典:「千葉市統計書(令和4年度版)」(千葉市)
1、動画(録画)は遺言書の代わりにならない
「遺産の分け方を話した動画を残して、遺言書の代わりにしよう」このように考える方が時折いらっしゃいます。特に健康状態の悪化などが原因で、ご自身で文字を書けない方は、遺言書の代わりに動画を残すという手段は魅力的に感じるかもしれません。
しかし、動画で家族にメッセージを残すことはできても、遺言書と同等の法的効力は認められない点に注意が必要です。
ご自身で文字を書くことができなくても、公正証書遺言は作成できます。弁護士のサポートを受けながら公正証書遺言を作成しましょう。
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(1)民法上認められている遺言書の方式|動画は不可
遺言書は、民法の方式にしたがって作成しなければ無効となります(民法第960条)。
民法で認められている遺言書の方式は、主に以下の3つです。① 自筆証書遺言(民法第968条)
遺言者が全文・日付・氏名を自書して作成する遺言書です。
② 公正証書遺言(民法第969条)
公証人に内容を伝えて、原本を作成してもらう遺言書です。
③ 秘密証書遺言(民法第970条)
遺言者が作成した証書を封印して作成する遺言書です。
これらのほか、危急時遺言(民法第976条)など特別の方式による遺言が認められることがあります。
民法上認められている遺言は、どの方式であっても、最終的に文書を作成することが必須とされています。したがって、現在(2024年3月時点)の日本の法律では、動画で遺言書を作成することはできません。 -
(2)自分で文字を書けなくても、公正証書遺言は作成可能
自力で文字を書くことができないとしても、公正証書遺言であれば作成できます。
公正証書遺言は、公証人に内容を伝えて作成してもらう遺言書です。弁護士などに案文の作成を依頼し、それを公証人に送ってもらえば、自ら文字を書くことなく遺言書を作成できます。
動画だけでは遺言書として認められないので、公正証書遺言の作成をご検討ください。
2、動画付公正証書遺言とは
動画自体に遺言書としての効力は認められませんが、公正証書遺言の作成と併せて動画を撮影・保存しておくこと(=動画付公正証書遺言)は、相続トラブルを予防する観点から効果的と考えられます。
動画付公正証書遺言では、公証人に依頼して公正証書遺言を作ってもらうとともに、案文を作成する場面などを動画で撮影します。動画撮影の目的は、遺言の当時に遺言者が意思能力(遺言能力)を有していた事実を証明することです。
認知症などにより、意思能力を欠いた状態で作成された遺言書は無効となってしまいます(民法第3条の2)。実際に遺言者が亡くなって相続が発生した際には、遺言書の内容に納得できない相続人が、意思能力がなかったことを理由に遺言無効を主張し、トラブルになってしまうケースが少なくありません。
動画付公正証書遺言を作成しておけば、公証人が遺言者の状態を確認したことに加えて、動画の様子によっても遺言者に意思能力があったことを証明できます。
相続発生後に遺言無効を主張されるトラブルに対して、動画付公正証書遺言は効果的な予防策となるでしょう。
3、動画付公正証書遺言の作り方
動画付公正証書遺言は、以下の手順で作成します。
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(1)遺言書案文を作成する様子の動画撮影
遺言書の案文を作成する段階で、その内容を検討する遺言者の様子を動画で撮影します。
たとえば弁護士に遺言書の作成サポートを依頼する場合は、弁護士が遺言者に対して、どのような内容の遺言書を希望するかについてヒアリングを行うので、その様子を撮影することになります。
遺言者が理路整然と自分の希望を話す様子を撮影すれば、将来的に遺言無効を主張されても、意思能力があったことを示す有力な証拠となります。 -
(2)遺言書案文を公証役場に送付|公証人にチェックしてもらう
遺言書の案文を作成したら、公証役場に送付して公証人にチェックしてもらいます。
公証人は、案文について法的な観点から問題がないかを確認し、必要に応じて修正を行って遺言者(または代理人)に返送します。遺言者は公証人から送付された案文を確認し、問題なければ遺言書の内容が確定します。
なお、公証人の修正が実質的な内容の変更に及ぶ場合には、変更内容を確認する様子等についても、必要に応じて動画撮影を行います。 -
(3)作成日程の調整・証人2名の手配
遺言書の内容が確定したら、実際に公正証書遺言を作成する日程を調整します。作成場所は原則として公証役場ですが、出張を依頼することも可能です(追加手数料が発生します)。
公正証書遺言の作成に当たっては、証人2名の立ち会いが必要です。証人がご自身で手配してもよいですし、弁護士や公証役場に手配を依頼することもできます。
ただし、以下のいずれかに該当する人は証人になれないのでご注意ください。- ① 未成年者
- ② 推定相続人および受遺者、ならびにこれらの配偶者および直系血族
- ③ 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人
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(4)公正証書遺言の作成
調整した作成日において、公正証書遺言を作成します。
公証人は、公正証書遺言の原本となる文書をあらかじめ作成して持参します。その内容は遺言者と証人に提示されるとともに、公証人が読み聞かせます。
遺言者と証人は、遺言書の内容に問題がないことを確認した上で、署名・押印を行います。遺言者が署名できないときは、公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。
最後に公証人が署名・押印を行い、公正証書遺言が完成します。公証人から遺言者または代理人に対して正本と謄本が1通ずつ交付され、公正証書遺言の作成手続きは終了です。 -
(5)正本・謄本・動画の保存
公証人から交付された公正証書遺言の正本・謄本と、事前に撮影した動画は、セットで保存しておきましょう。後に遺言書に関するトラブルが発生した際に、スムーズに利用できるようにすることが大切です。
4、遺言書の作成サポートを弁護士に依頼すべきケース
遺言書を作成する際には、弁護士にサポートを依頼するのが安心です。特に以下のようなケースでは、遺言書の作成サポートを弁護士に依頼することをおすすめします。
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(1)遺産の分け方を自分で決めたい場合
遺言書を作成すれば、遺産の分け方をご自身で決めることができます。
ご自身のご希望を相続へ反映させるためには、適切な文言で遺言書を作成しなければなりません。弁護士にご依頼いただければ、法的な観点から適切な内容の案文をご作成いたします。 -
(2)相続トラブルを予防したい場合
遺言書を作成することは、相続トラブルの予防につながります。遺産の分け方をあらかじめ決めることにより、相続人が遺産分割についてもめるリスクが減るからです。
ただし、遺言書を作成したとしても、遺言無効や遺留分侵害などのトラブルが発生することがあります。
これらのトラブルを予防するためには、遺言書の方式・内容の両面について、法的な観点から適切な検討と対応が不可欠です。弁護士にご依頼いただければ、相続トラブルを効果的に予防できる遺言書の作成をサポートいたします。 -
(3)相続税対策を行いたい場合
多額の財産を有する方が遺言書を作成する際には、相続税対策も行うことをおすすめします。状況に合わせた相続税対策を行えば、相続税の負担軽減や納税資金のスムーズな確保につながります。
遺言書を通じた相続税対策を行うためには、税理士など税務専門家のアドバイスが欠かせません。ベリーベスト法律事務所グループには税理士も在籍しているため、相続税対策も可能です。弁護士と連携しながら総合的なサポートで円満相続に向けて尽力いたします。 -
(4)自分だけでは遺言書を作れない場合
遺言書に何を書いたらよいか、どのような方式で作成すべきかなどが分からない方は、弁護士にご相談いただくのが安心です。法的に有効かつ相続トラブルを予防できる遺言書の作成を、ワンストップでサポートいたします。
5、まとめ
動画付公正証書遺言は、相続トラブルへの効果的な予防策となります。特にご自身で遺言書を作成するのが難しい方や、相続について家族間で揉めてほしくない方は、動画付公正証書遺言の作成について弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。遺言書についても、公正証書遺言作成サポート、遺言執行者への就任、自筆証書遺言書保管制度の利用、遺言信託など幅広いサポートが可能です。
遺言書の作成をご検討中の方は、まずはベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスにご相談ください。
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