遺留分放棄の念書は法的に有効? 特定の相続人に相続させない方法
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相続対策として、特定の相続人の方に財産を残したくないと考える方は珍しくありません。また、たくさんの金銭的支援をしてきたことから、相続では別の子どもに多く遺産を渡したいというニーズもあるでしょう。
このような場合、生前、遺留分を放棄するように念書を書かせておくことで遺産を渡さないようにしたいと考える方がおられます。しかし、念書を直接書かせたとしても法的効果は期待できません。
そこでこの記事では、遺留分の放棄に関する念書の有効性や、特定の相続人に遺産を渡さないようにするための対策などについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、遺留分放棄に関する念書は法的に有効なの?
相続人に遺産を一切渡したくないという場合には、その相続人の最低限の取り分である「遺留分」を放棄してもらう必要があります。本章では、そもそも遺留分とは何か、遺留分放棄と相続放棄の違い、念書の有効性について解説します。
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(1)遺留分の放棄とは?
そもそも遺留分とは「相続人のために、法律上必ず留保されなければならない一定割合の相続分」のことをいいます。特定の相続人に財産を一切残したくない場合は、この遺留分を放棄してもらわなければなりません。
遺留分の権利があるのは、財産を残した「被相続人」の兄弟姉妹を除く以下の相続人です。- 被相続人の配偶者
- 被相続人の子およびその代襲者(※)
- 被相続人の直系尊属(被相続人のより上の世代:祖父母)
各相続人に補償されている遺留分の割合は、相続人の組み合わせに応じて異なります。具体的な遺留分の割合は以下のようになります。
- 配偶者のみが相続人の場合:2分の1
- 子どものみが相続人の場合:2分の1
- 直系尊属のみが相続人の場合:3分の1
- 兄弟姉妹のみが相続人の場合:遺留分なし
- 配偶者と子どもが相続人の場合:配偶者が4分の1、子どもが4分の1
- 配偶者と父母が相続人である場合:配偶者が3分の1、父母が6分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合:配偶者が2分の1、兄弟姉妹は遺留分なし
なお、子どもが長男・次男と複数いる場合には、子どもの遺留分を等しく分けることになります。
被相続人の遺言や遺贈により取得した財産が遺留分より少なくなった場合、不足する遺留分を取り戻すことができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。遺留分侵害額請求をされたくない場合は、遺留分の放棄に合意してもらう必要があります。 -
(2)遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄に似た言葉に「相続放棄」がありますが、異なる制度ですので注意が必要です。
まず遺留分の放棄は、遺留分侵害額請求権を失うだけなので遺産相続自体は可能です。たとえば、借金などの負債は法定相続分通りに相続することになります。また、遺留分を放棄したとしても他の相続人には一切影響はありません。
これに対し、相続放棄をすると、その人は元から相続人ではなかったことになるので、すべての遺産を相続できません。したがって、負債も相続せずにすみます。また、相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増加したり、次順位の相続人に権利が移転したりという効果が生じます。
さらに、相続放棄については、被相続人の生前に行うことはできません。これに対して、遺留分の放棄については、一定の場合に被相続人の生前でも行うことができます。 -
(3)生前の遺留分放棄の念書に法的効果はない
遺留分を放棄させるために、生前に相続人に遺留分放棄の念書を書かせることがあります。しかし、このような遺留分放棄の念書には法的な効果はありません。
被相続人の生前に遺留分を放棄する場合には、裁判所による手続きが必要となります。
そのため、生前、被相続人の目の前で子どもが「遺留分を放棄する」という念書や合意書を作成していたとしても、法定の手続きをとっていないため法的な拘束力は一切ないのです。
2、被相続人の生前に遺留分放棄をさせる方法とは?
遺留分の権利をもつ相続人は、相続の開始前(被相続人のご存命中)に、家庭裁判所の許可を得ることで、あらかじめ遺留分を放棄することができます。
遺留分の放棄をするためには、相続開始前(被相続人がご存命中)に遺留分を有する相続人が遺留分放棄の申し立てを行う必要があります。
申立先は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
遺留分放棄の手続きに必要となる書類は以下のものです。
- 申立書
- 標準的な申立添付書類:被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)、申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
申立書の書式や書式記載例は家庭裁判所のホームページにおいて確認することができます。
同じ書類は1通で足りますが、審理のために必要な場合には、追加書類の提出をお願いされる可能性もあります。
3、遺留分を減額するためには
特定の相続人の遺留分を渡したくない、減らしたいという場合に、生前にとれる対策についてお伝えします。
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(1)養子縁組で相続人を増やす
特定の相続人の遺留分を減らすために用いられる対策としては、「養子縁組」があります。
たとえば、ご本人(被相続人)に妻と長男と次男の2人の子どもがいる場合を考えてみましょう。この場合、妻の遺留分は2分の1、長男の遺留分は4分の1、次男の遺留分は4分の1となります。
ここで、妻には離婚歴があり、前の夫との間の連れ子がいたとします。このままではご本人と連れ子の間には法律上の親子関係が存在していないため、連れ子には相続権が発生していません。
そこで妻の連れ子を養子として養子縁組をします。養子となった連れ子には実子同様の相続権が発生することになるため、相続人となる子どもの数は3人になります。
このような養子縁組をした場合、子ども1人当たりの遺留分の割合は4分の1から6分の1になるため、遺留分の割合が減ったことになります。
ただし、次男の遺留分を減らすためにこのような養子縁組を行った場合、不満のある次男から養子縁組無効確認訴訟が提起されてしまう可能性があります。
養子縁組が有効となるためには、養子縁組の届け出を行った当時、養親・養子の双方に養子縁組をする意思があったといえる必要があります。 -
(2)他の相続人に生前贈与しておく
財産を渡しておきたい相続人にできるだけ早く生前贈与しておくことも有効な対策となります。
ただし、一定の生前贈与については遺留分に含まれる可能性があるため注意が必要です。
遺留分に含まれるのは、「1年以内に相続人以外へ生前贈与された財産」と、「10年以内に相続人へ生前贈与された“特別受益”にあたる財産」です。特別受益とは、一部の相続人だけが贈与や遺贈で受け取った利益をいいます。
また、贈与された時期に関係なく、遺留分を侵害していると双方が知りながら行われた生前贈与についてはすべて遺留分の計算に含まれることを覚えておきましょう。 -
(3)金融資産を生命保険にする
金融資産を生命保険金に変更しておくことで相続の対象となる相続財産を減らすことができます。
生命保険金は、保険料の対価として保険会社から保険金の受取人に対して支払われるものですので、被相続人の財産ではなく保険金受取人の「固有の財産」として扱われています。
このように生命保険金は相続財産に含まれないため、遺留分の対象にもならないのです。
以上より、特定の相続人に多くの財産を渡したいという場合には、その相続人を受取人として指定した生命保険契約を締結するという対策をとることができます。
ただし、相続人が受け取る生命保険金には、相続税または贈与税が課税される可能性があります。税金の負担については考慮しておく必要があるでしょう。
4、特定の相続人に相続させたくないときの対処法
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(1)家庭裁判所に申請して相続権を廃除する
「相続廃除」とは、相続権をもっている人を相続から外すことができる制度です。
遺留分の権利をもつ推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のことです)が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたときや、推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人が推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法第892条)。
ただし、相続廃除を申し立てたとしても必ず廃除が認められるわけではないという点には注意が必要です。 -
(2)対象となる相続人に相続放棄をさせる
被相続人の死後に相続人が相続放棄をすれば、その相続人ははじめから相続人ではなかったことになります。したがって、財産を渡したくない人に相続放棄をしてもらえば、その人の相続権はなくなります。
ただし、相続放棄をするか否かは当該相続人が自由に決めることができる事項であり、生前に相続放棄を約束してもらっていたとしても死後に確実に放棄してくれるとは限りません。 -
(3)遺留分侵害額請求権の時効を主張する
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始や遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから「1年間」行使しないときは、時効によって消滅します。
また、相続開始のときから「10年」を経過したときも請求できなくなります。したがって、法定の期間内に相続人から遺留分の請求がなされなかった場合には、遺留分を渡す必要はなくなるのです。
5、まとめ
遺留分の放棄について生前に念書を残しておいても法的な効果はありません。生前に特定の相続人に遺留分を放棄させるためには、家庭裁判所の許可が必要になります。
そのうえで、遺留分を減額させるためにはいくつかの対策があります。もし特定の相続人に財産を相続させたくないとお考えの場合には、相続問題の解決実績がある弁護士に早めに相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスには、相続や親族トラブルなどの解決実績がある弁護士が在籍しております。遺留分などの相続トラブルにお悩みの際は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
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