遺産相続で印鑑証明が必要になる手続き|注意点も解説

2024年03月19日
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遺産相続で印鑑証明が必要になる手続き|注意点も解説

千葉市が公表している統計資料によると、令和4年の千葉市内の死亡者数は1万818人で、前年よりも1252人増加しました。このことから、千葉市内でも多くの相続が発生していることがわかります。

遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成することになります。そして、遺産分割協議書には、各相続人が実印で押印をする必要がありますので、印鑑証明書が必要になります。さらに、その後の相続手続きにおいても印鑑証明書が必要になることがあります。印鑑証明書はさまざまな場面で必要になる書類であるため、必要になるタイミングなどをしっかりと理解しておくことが大切です。

本コラムでは、遺産相続で印鑑証明が必要になる手続きや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

1、そもそも「印鑑証明」とはなにか

印鑑証明書とは、その印鑑が市区町村役場で登録された印鑑であることを公的に証明する文書であり、正式名称を「印鑑登録証明書」といいます。

印鑑証明書には、主に以下のような内容が記載されています。

  • 住所
  • 氏名
  • 生年月日
  • 登録印の印影


印鑑証明書には登録した印鑑の印影が記載されているため、契約書などの書面に押印した印影と印鑑証明書の印影を照合することで、使用された印鑑が実印であるかどうかを判別することができます
これにより、「契約の当事者が本人であるということ」および「本人の意思に基づいて契約がなされたということ」の証明が可能になるのです。

このように実印と印鑑証明書があれば、簡単に契約の締結ができてしまうため、どちらについても気軽に他人に渡さないようにしましょう。

2、印鑑証明書を入手する方法

以下では、印鑑証明書を入手する方法について説明します。

  1. (1)印鑑登録申請

    印鑑証明書の発行を受けるためには、まずは、印鑑登録を行う必要があります。
    印鑑登録を行った登録印は一般的に「実印」と呼ばれています。
    「実印で押印をお願いします」と言われた場合には、印鑑登録をした印鑑で押印するようにしましょう。

    印鑑登録申請は、住民登録をしている市区町村役場において行います。本人が窓口に以下のものを持参して申請をすれば、即日に登録することができます。

    • 登録印
    • 官公署が発行した本人の顔写真付き身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証など)


    本人が窓口で申請できない場合には、以下のものを持参した代理人により申請することが可能です。

    • 登録印
    • 官公署が発行した本人の顔写真付き身分証明書(代理人のもの)
    • 委任状


    なお、代理人による印鑑登録申請の場合には、本人の登録意思確認のために、後日に自宅に照会書兼回答書が届きます。
    本人がそれに必要事項を記入や押印して、回答書を市区町村役場の窓口に持参すれば、手続きが完了です。

  2. (2)印鑑証明書の交付申請

    印鑑証明書の交付申請は、市区町村役場の窓口またはコンビニで行うことができます。
    どちらの方法であっても、印鑑証明書の発行手数料は1通につき300円です。

    ① 市区町村役場の窓口で交付申請する方法
    市区町村役場の窓口で印鑑証明書の交付申請をする場合には、印鑑登録をした際に交付された「印鑑登録証(印鑑登録カード)」が必要になります。
    印鑑登録証を窓口で提示して交付申請をすれば、印鑑証明書を発行してもらえます。

    ② コンビニで交付申請する方法
    コンビニで印鑑証明書の交付申請をする場合には、マイナンバーカードが必要になります。コンビニの店舗に設置されているマルチコピー機を利用することで、印鑑証明書を発行することができます。
    コンビニでの印鑑証明書の発行は、午前6時30分から午後11時までで、土日祝日も対応しています。
    仕事などで役場に行く時間がない方は、コンビニを利用するとよいでしょう。

3、相続手続きで印鑑証明書が必要となるタイミング

相続手続きでは、以下のようなタイミングで印鑑証明書が必要になることがあります。

  1. (1)遺産分割協議書の作成

    遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成します。
    遺産分割協議書の内容が間違いないことを確認したうえで、各相続人が実印で押印すれば、遺産分割協議書が完成します。
    その際には、実印での押印であることを証明するために、相続人全員の印鑑証明書が必要になります。

  2. (2)預貯金の払い戻し

    預貯金の払い戻しを受ける際には、相続人の印鑑証明書が必要になります。
    遺産分割協議に基づいて預貯金の払い戻しを受ける場合には、遺産分割協議書を作成した際の印鑑証明書をそのまま利用することができます。
    ただし、金融機関によっては、「発行日から6か月以内」など印鑑証明書に期限が設けられているものもありますので、早めに手続きを進めましょう。

  3. (3)不動産の相続登記

    被相続人の財産に不動産が含まれる場合には、遺産分割の結果に従って、被相続人名義から相続人名義に名義変更の登記(相続登記)を行わなければなりません。
    遺産分割協議に基づいて相続登記を行う場合には相続人全員の印鑑証明書が必要になりますが、遺言書に基づいて相続登記を行う場合には印鑑証明書は不要です。

  4. (4)相続税の申告

    遺産総額が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要になります。
    遺産分割協議が成立している場合には、その内容に従い遺産を分配した結果に基づいて課税が行われるため、遺産分割協議書とともに相続人全員の印鑑証明書が必要になります。

  5. (5)死亡保険金の受け取り

    被相続人が生命保険に加入していた場合には、受取人に指定されていた人は、保険会社に対して死亡保険金の請求をすることができます。
    死亡保険金の請求の際には、受取人の本人確認のために、死亡保険金の請求書に実印での押印と印鑑証明書の提出が求められます。

4、印鑑証明に関する相続手続きの注意点

印鑑証明書に関する相続手続きを行う際には、以下のような注意点があります。

  1. (1)相続人が海外に居住している場合には署名証明が必要

    印鑑証明書は、日本国内に住所登録がある人しか取得することができません。
    そのため、海外に居住している相続人は、印鑑証明書を取得することができないのです。

    このような場合には、印鑑証明書の代わりに「署名証明(サイン証明)」というものを利用することになります。
    署名証明は、在外公館で発行してもらうことができますので、海外居住の相続人に「署名証明を取得してください」とお願いしましょう。

  2. (2)相続人が未成年者である場合には親権者または特別代理人の印鑑証明書が必要

    未成年者は、本人ひとりでは有効な法律行為を行うことができません。
    遺産分割協議も法律行為の一種であるため、相続人が未成年者である場合には、未成年者の親権者である親が代わりに遺産分割協議を行うことになるのです。

    ただし、親も当該相続における相続人である場合には、親と子どもの利害が対立しますので、そのままの状態では利益相反になってしまいます。
    このような場合には、裁判所に申し立てを行い、特別代理人を選任してもらうことになります。
    したがって、未成年者が相続人である場合には、親権者である親または特別代理人に選任された人の印鑑証明書が必要になるのです。

  3. (3)印鑑証明書の提出を拒む相続人がいる場合には遺産分割調停を申し立てる

    遺産分割協議が成立したものの、印鑑証明書の提出を拒む相続人がいる場合には、その後の相続手続きを行うことができません。

    このような場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てが必要になります。
    遺産分割調停または審判が成立した場合には、調停調書または審判書が交付されますが、これらを利用すれば相続人の印鑑証明書がなくても相続手続きを行うことが可能です。

5、遺産相続は弁護士に相談

遺産相続に関して疑問点やお困りごとがある場合には、弁護士に相談することも検討しましょう。

  1. (1)面倒な相続人調査や相続財産調査を任せることができる

    相続が発生した場合には、まずは誰が相続人であるかを確定させる必要があります。
    そのためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本を取得して、相続人調査を行わなければなりません。
    戸籍の記載は非常に複雑な内容になっているため、漏れなく相続人を確定していくために、専門家である弁護士に任せることをおすすめします

    また、遺産分割協議の前提として、被相続人の相続財産も確定させる必要があります。
    同居していた家族でもすべての財産を把握しているわけではないため、相続財産調査が必要になります。
    弁護士であれば、財産の種類ごとにどのような照会が必要になるかを熟知しているため、相続財産を正確に調査することが可能です。

  2. (2)遺産分割協議を任せることができる

    弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として遺産分割協議に参加することができます。
    当事者同士の話し合いではどうしても感情的になってしまい、相続トラブルに発展するケースも少なくありません。
    しかし、弁護士が介入することで、冷静に話し合いを進めることが可能になります。
    また、弁護士が法的観点から適正な遺産分割方法を提案することで、他の相続人の納得も得られやすくなるでしょう。

    遺産分割では、特別受益や寄与分なども考慮する必要があります。
    適正な遺産分割を実現するためにも、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします

6、まとめ

相続手続きでは、さまざまな場面で印鑑証明書が必要になります。
今までの生活で実印を利用する機会がなかった方は、そもそも印鑑登録自体をしていないこともあるでしょう。
まずは印鑑登録を行い、印鑑証明書の発行の準備を進めていってください。

印鑑証明が無事に済んでも、遺産相続においては、他にもさまざまな手続きが必要になります。
また、相続人同士でトラブルが生じることも多々あります。
「ひとりで手続きを進めていくのは不安だ…」という方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています