相続人に障害者がいるときの遺産相続の進め方と注意点
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家族が亡くなった場合は、相続人の間で遺産分割を行うことになります。
とくに相続人の中に知的障害者がいる場合には、遺産分割に先立って成年後見制度を利用すべき場合があります。また、一定の要件を満たす精神障害者・身体障害者については、相続税の障害者控除を受けることもできます。
遺産相続が発生したら、法律上のルールや税制に従いながら適切な方法によって遺産分割を行うために、お早めに弁護士にご相談ください。本コラムでは、相続人の中に障害者がいる場合の遺産分割について、相続人が知っておくべきことをベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、相続人に障害者がいるときの遺産分割
相続人の中に障害者がいる場合、障害の内容や状態によっては、遺産分割に先立って成年後見人の選任申立てなどを検討する必要が生じます。
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(1)遺産分割とは
遺産分割とは、亡くなった被相続人が生前に有した相続財産を相続人間で分割する手続きです。
原則として、遺産分割は相続人間の話し合い(遺産分割協議)によって行います。
協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停または審判を通じて遺産分割の方法を決定します。
遺産分割は、相続人全員が参加して行わなければなりません。
また、遺産分割に参加する相続人は、その全員が意思能力(=自己の法律行為の結果を判断できる能力。民法3条の2)を備えている必要があります。
相続人がひとりでも欠けている場合や、意思能力のない相続人が参加した場合には、遺産分割が無効となることに注意しましょう。 -
(2)相続人が知的障害者の場合|判断能力の程度により対応を検討
相続人の中に知的障害者がいる場合、その人の判断能力の程度によって、遺産分割に先立ち成年後見制度の利用を検討する必要があります。
知的障害が重症であり、相続人が意思無能力の状態になっていると、そのまま本人が遺産分割協議に参加しても遺産分割が無効となってしまいます。
このような場合には、家庭裁判所に後見開始の申立てをしたうえで、選任された成年後見人を遺産分割協議に参加させなければなりません。
一方、知的障害者の相続人が意思無能力の状態には至っていないとしても、本人が遺産分割に関する意思決定を適切に行うのが難しいことがあります。
このようなケースでは、本人の判断能力の程度に応じて、家庭裁判所に対する後見・保佐・補助の申立てを検討しましょう。 -
(3)相続人が身体障害者の場合|原則として特別な対応は不要
身体障害者である相続人については、知的能力(判断能力)に問題がない限り、遺産分割に関して特別な対応は原則として不要です。
ただし、身体障害の影響により、対面での遺産分割協議に参加するのが難しいということもあります。
そのような場合には、オンライン通話を活用するなど、身体障害者の相続人が遺産分割協議に参加できるような工夫をしましょう。
2、成年後見制度の種類・手続き・費用
以下では、知的障害者である相続人がいる場合に利用を検討すべき「成年後見制度」について、種類と手続きや費用を紹介します。
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(1)成年後見制度の種類|成年後見・保佐・補助
成年後見制度は、判断能力が低下した人のために、法律行為をサポートする人を選任する制度です。
知的障害により判断能力が低下した相続人については、「成年後見」「保佐」「補助」という三つの成年後見制度を利用できます。① 成年後見
精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者(物事の良し悪しについて判断できない状態にある人)について開始されます(民法第7条)。
後見開始の審判を受けた場合、本人の法律行為は取り消すことができるようになります(日常生活に関するものを除く、民法第9条)。
また、サポート役である成年後見人には本人を代理して法律行為をする権限が与えられます。
② 保佐
精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分な者について開始されます(民法第11条)。
保佐開始の審判を受けた場合、本人が一定の重要な法律行為をする際には、サポート役である保佐人の同意が必要となります(民法第13条第1項)。
また、保佐人の同意を得ずに本人が行った法律行為は取り消すことができます(同条第4項)。
③ 補助
精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分な者について開始されます(民法第15条第1条)。
本人以外の者が補助開始の申立てをする際には、本人の同意が必要です(同条第2項)。
補助開始の審判によって定められた法律行為については、本人が行う際にはサポート役である補助人の同意が必要となります(民法第17条第1項)。
また、補助人の同意を得ずに本人が行った法律行為は取り消すことができます(同条第4項)。
意思無能力の状態に至った相続人については、遺産分割に先立って後見開始の申立てをしなければなりません。
これに対して、未だ意思無能力の状態に至っていない相続人については、判断能力の程度に応じて成年後見・保佐・補助のいずれかを選択しましょう。 -
(2)成年後見制度を利用する手続きの流れ
成年後見制度を利用する際の手続きは、以下のような流れで進みます。
① 裁判所に対する申立て
成年後見・保佐・補助のいずれかを選択して、本人の住所地の家庭裁判所に申立てを行います。申立ての際には、成年後見人・保佐人・補助人の候補者を推薦できます。
<申立ての必要書類>
- 申立書
- 申立手数料
- 登記手数料
- 郵便切手
- 戸籍謄本、住民票
- 成年後見に関する登記事項証明書
- 診断書
② 家庭裁判所による調査等
申立てを受理した家庭裁判所は、本人に対する質問や鑑定などを通じて、成年後見・保佐・補助の開始要件を満たしているかどうかを判断します。
また、成年後見人・保佐人・補助人の候補者について、本人の親族に対する意見聴取などを通じて、適任であるか否かを判断します。
③ 後見開始・保佐開始・補助開始の審判
成年後見・保佐・補助の開始要件を満たしていると判断した場合、家庭裁判所は後見開始・保佐開始・補助開始の各審判を行います。
審判において、成年後見人・保佐人・補助人が選任されます。申立人の推薦は参考とされますが、推薦された人とは別の人が選任される場合もあります。 -
(3)成年後見制度を利用する際の費用
家庭裁判所に成年後見・保佐・補助の開始を申立てる際には、以下の費用がかかります。
- 申立手数料:800円
※ 保佐人・補助人について代理権または同意権付与の審判を申立てる場合は、申立て1件ごとに800円を追加 - 登記手数料:2600円
- 連絡用の郵便切手:数千円分程度
- 鑑定料:数万円程度(必要な場合のみ)
さらに、弁護士などの専門家が成年後見人・保佐人・補助人に就任する場合には、1か月当たり2万円から6万円程度の報酬を支払う必要があります(報酬額は家庭裁判所が決定します)。
- 申立手数料:800円
3、相続税の「障害者控除」とは
85歳未満の障害者である相続人は、相続税額の軽減(障害者控除)を受けられます。
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(1)障害者控除を受けられる人
相続税について障害者の税額控除を受けられるのは、以下のすべての要件を満たす人です。
- ① 相続や遺贈によって財産を取得した時に、日本国内に住所があること(一時居住者で、かつ被相続人が外国人または非居住者である場合を除く)
- ② 相続や遺贈によって財産を取得した時に、障害者であること
- ③ 法定相続人(相続放棄があった場合は、それがなかったものとした場合における相続人)であること
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(2)障害者控除の額
相続税について受けられる障害者の税額控除の額は、当該障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円です(1年未満の期間は切り上げ)。
ただし、重度の障害がある「特別障害者」の要件を満たす場合には、満85歳になるまでの年数1年につき20万円の税額控除を受けられます。(例)
- 相続開始時に、障害者である相続人が60歳6か月の場合
→障害者控除額は250万円(特別障害者の場合は500万円)
- 相続開始時に、障害者である相続人が60歳6か月の場合
4、遺産相続・相続税については弁護士に相談を
遺産相続の手続きについては、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
弁護士は、相続人間の調整を行って円滑な遺産分割を試み、さらに名義変更などの必要な手続きについても代行することができます。
もし相続人間で遺産分割トラブルが発生した場合にも、弁護士に依頼すれば、協議・調停・審判を通じた速やかな解決を図ることができます。
また、ベリーベスト法律事務所には税理士も在籍しており、相続税申告などについてもワンストップでご相談いただけます。
遺産相続や相続税申告などについて総合的なサポートを希望される方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
5、まとめ
知的障害者である相続人がいる場合には、判断能力の程度に応じて、遺産分割に先立ち成年後見制度の利用を検討しましょう。
遺産分割や成年後見制度の利用などについては、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を承っております。
遺産分割など法律上の手続きに加えて、相続税申告など税務上の手続きについても併せて対応いたします。
遺産相続や相続税に関してお悩みを抱えられている方は、お早めに、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています