遺産分割審判で即時抗告したら結果は覆る? 申し立てるべきケース
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当オフィスがある千葉市美浜区では、美浜区役所1階にある市民相談室で相続などについての各種相談を受け付けています。ただし、裁判所ですでに調停や訴訟が行われている内容については受け付けてくれません。
すでに裁判所で話し合いを行っていて、家庭裁判所が行った遺産分割審判の内容に納得できないというケースがあります。このとき、「即時抗告」によって不服申し立てを行うことが可能です。即時抗告の期間は非常に短いため、弁護士のサポートを受けながら準備を進めたほうがよいのですが、区の無料相談が利用できない場合どうすればよいのでしょうか。
本コラムでは、遺産分割審判に対する即時抗告について、手続きの流れや申し立てるべきケースなどについて、遺産相続についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割審判に対する「即時抗告」とは?
家庭裁判所の遺産分割審判に対して不服がある場合には、一定の期間に限り「即時抗告」が認められています。
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(1)遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、家庭裁判所によって示された、遺産分割に関する紛争の結論(決定)を意味します。
遺産分割協議がまとまらない場合、相続権を有する共同相続人は遺産分割調停を申し立て、調停委員の仲介の下で引き続き話し合いを行います。
遺産分割調停も不成立に終わった場合、家庭裁判所が紛争を解決するために行うのが「遺産分割審判」です。
遺産分割審判が確定した場合、当事者は審判の内容に従って遺産分割を行う義務を負います。 -
(2)即時抗告=遺産分割審判に対する唯一の不服申し立て手続き
遺産分割審判に対しては、訴訟の判決に対する控訴や上告ではなく、「即時抗告」が唯一の不服申し立て手続きとして認められています。
即時抗告の期間は、審判の告知日から2週間です(家事事件手続法第86条第1項、第2項)。
即時抗告期間が経過すると、遺産分割審判は確定するため、審判内容に不服がある場合には早めに即時抗告の準備を整えなければなりません。
ただし、結果を覆すためには法的な根拠がある適切な書類が必要です。素早く適切に準備を行う必要があるため、即時抗告を行う際は弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
お問い合わせください。
2、即時抗告を申し立てる際の手続き
遺産分割審判に対する即時抗告の手続きは、抗告状の提出に始まり結論の確定に至るまで、大まかに以下の流れで進行します。
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(1)抗告状の提出|提出先は家庭裁判所、宛先は高等裁判所
遺産分割審判に対する即時抗告は、裁判所に抗告状を提出して行います(家事事件手続法第87条第1項)。
提出先は審判を行った家庭裁判所ですが、抗告状の宛先は高等裁判所とする必要があります。
高等裁判所の管轄地域は都道府県ごとに決まっているので、詳しくは裁判所ウェブページからご確認ください。
抗告状の記載事項は、以下のとおりです(同条第2項)- 当事者および法定代理人
- 原審判の表示およびその審判に対して即時抗告をする旨
即時抗告の具体的な理由については、後で提出する即時抗告理由書に記載することにして、抗告状には記載しなくても構いません。
前述のとおり、即時抗告の期間は審判告知日から2週間以内なので、とにかく早めに抗告状を提出することを優先しましょう。
なお、抗告状には1800円分の収入印紙を貼付するとともに、連絡用の郵便切手(数千円分)を添付しなければなりません。
また、他の相続人の人数と同数分、抗告状の写しを添付する必要があります(家事事件手続規則第55条第2項、第54条)。 -
(2)即時抗告理由書の提出
即時抗告の抗告状において、遺産分割審判の取り消し・変更を求める理由の具体的な記載がない場合は、審判を行った家庭裁判所に対して、その理由を記載した即時抗告理由書を提出しなければなりません(家事事件手続規則第55条第1項)。
即時抗告理由書の提出期間は、即時抗告の提起後14日以内です。
抗告状と同様に、他の相続人の人数と同数の写しを添付する必要があります。
なお、即時抗告理由書を提出する際には、主張内容を基礎づける証拠資料も併せて提出しましょう。 -
(3)抗告状等の写しの送付・他の相続人による反論書面の提出
遺産分割審判に対する即時抗告を受理した家庭裁判所は、他の相続人に対して抗告状・即時抗告理由書の写しを送付します(家事事件手続法第88条第1項)。
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(4)高等裁判所による書面審理
即時抗告の審理は、高等裁判所によって行われます。
高等裁判所は、各当事者から提出された主張書面や証拠資料を詳細に検討します。
即時抗告は書面審理が中心なので、高等裁判所に主張内容がきちんと伝わるように、提出書面を作りこむことが大切です。 -
(5)当事者の陳述の聴取
遺産分割審判に対する即時抗告事件では、即時抗告が不適法であるとき、または即時抗告に理由がないことが明らかな場合を除いて、高等裁判所が抗告人以外の当事者の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法第89条第2項)。
書面審理に加えて、高等裁判所はすべての相続人の言い分を聴き取ったうえで、最終的な決定の内容を検討します。 -
(6)和解勧告
即時抗告に対する決定を行う前に、高等裁判所は各相続人に対して和解を勧告するのが一般的です。
相続人全員が和解案に同意すれば、和解成立によって手続きは終了します。
和解案が合理的な内容であれば、予期せぬ結論が出されてしまうことを回避するため、和解案を受け入れることも検討すべきでしょう。 -
(7)高等裁判所による決定
相続人間で和解の成立に至らなかった場合、高等裁判所は審理を終結させた後、即時抗告に対する決定を行います(家事事件手続法第91条第1項)。
即時抗告について理由があると認められれば、高等裁判所は遺産分割審判を取り消したうえで、原則として決定によって自ら遺産分割の結論を示します(同条第2項)。 -
(8)高等裁判所の決定に対する不服申し立て|特別抗告・許可抗告
即時抗告に対する高等裁判所の決定について不服申し立てを行う方法には、「特別抗告」と「許可抗告」の2つがあります。
ただし、特別抗告と許可抗告が認められるのは、以下の場合に限られる点に注意が必要です。① 特別抗告(家事事件手続法第94条)
高等裁判所の決定に憲法違反があることを理由とする場合
② 許可抗告(同法第97条)
高等裁判所の決定が最高裁判所の判例等と相反していること、その他の法令解釈に関する重要な事項を含むことを理由に、高等裁判所が許可した場合
3、遺産分割審判に対して即時抗告を申し立てるべきケース
家庭裁判所の遺産分割審判に対して、即時抗告を申し立てるべきと考えられるのは、主に以下のケースです。
いずれにしても、単に「納得できない」という感情だけで即時抗告を行うのではなく、なぜ審判の内容が不適切であるのかを説得的に主張することが大切になります。
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(1)家庭裁判所の審判内容に事実誤認がある場合
ご自身が事実を正しく主張したにもかかわらず、家庭裁判所が他の相続人の誤った主張を採用して遺産分割審判を行った場合、審判の内容は事実誤認に基づく不適切なものと言えます。
この場合、即時抗告を行ったうえで、家庭裁判所が認めなかった事実を改めて主張することで、審判の結論が覆る可能性があります。 -
(2)家庭裁判所が重大な事実を正しく評価しなかった場合
ご自身の主張した事実を家庭裁判所が一応認めたものの、審判を行うに当たってその事実を不当に軽視した場合も、審判の内容は不適切と言えます。
特に寄与分を主張した場合には、相続財産の維持・増加に対する貢献度が不当に低く評価されるケースも少なくありません。
この場合も、即時抗告を行って高等裁判所に事実の再評価を求めれば、審判の結論が覆る可能性があります。
4、遺産分割審判に対する即時抗告は弁護士にご相談を
遺産分割審判は、家庭裁判所が審理を尽くしたうえで行われるため、即時抗告が認められるケースは決して多くありません。
その中でも、高等裁判所に即時抗告を認めてもらうには、法的な論理を練り直して申し立てを行うことが大切です。
しかし、即時抗告の期間は限られているため、非常に短期間で準備を整えなければなりません。
弁護士にご相談いただければ、遺産分割審判の結論と理由を分析したうえで、高等裁判所に対して説得的なアピールができる論理構成を迅速に検討します。
抗告状や即時抗告理由書の作成も、弁護士が一括してご対応いたします。
遺産分割審判の内容に納得できない方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
遺産分割審判に対する即時抗告は、審判の告知日から2週間以内に行わなければなりません。
即時抗告を行う際には、家庭裁判所の判断理由を覆せるだけの説得的な主張を、非常に短期間で組み立てる必要があるため、弁護士へのご依頼をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、遺産分割協議・調停・審判の手続きから、相続放棄・生前対策などに至るまで、遺産相続に関するご相談を幅広く承ります。
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遺産相続に関するトラブルにお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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