交通事故で顔に傷(醜状痕)が残ったら? 症状固定はいつ?

2022年08月15日
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交通事故で顔に傷(醜状痕)が残ったら? 症状固定はいつ?

2022年1月から5月末までに千葉市内で発生した交通事故は838件で、前年比39件の増加となりました。

交通事故で顔の傷を負い、治療しても完治しなかった場合は、症状固定後に醜状障害として後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。残った顔の傷の程度によっては、加害者に対して高額の後遺障害慰謝料・逸失利益を請求できる可能性がありますので、お早めに弁護士までご相談ください。

今回は、交通事故後に顔の傷が残った場合につき、醜状障害の症状固定のタイミング・後遺障害等級・請求できる後遺障害慰謝料や逸失利益の求め方などを、ベリーベスト法律事務所 海浜幕張オフィスの弁護士が解説します。

1、醜状障害とは?

「醜状障害」とは、交通事故によるケガが完治しなかった結果、外見に傷痕が残ってしまった状態を意味します。

なお、醜状障害のうち、特に上肢・下肢以外の日常露出する部分に残ったものを「外貌醜状」と呼ぶことがあります。

  1. (1)醜状障害が残る場合の例

    たとえば、交通事故の際に以下のような受傷が生じた場合に、醜状障害が残る可能性があります。

    • 顔面を強打して大きな傷を負った
    • 鋭利な金属などによって顔面や首に裂傷が生じた
    • 手や足が車の下敷きになり、皮膚組織が壊死(えし)した
    • 顔面、首、手足などについて大規模な切開手術が必要となり、手術痕が大きく残った
    など
  2. (2)醜状障害の具体的な症状例

    醜状障害の具体的な症状としては、以下の例が挙げられます。

    • 線状痕
    • 瘢痕(はんこん)
    • 欠損
    • ケロイド
    • 血腫
    • 色素沈着
    など
  3. (3)醜状障害の主な治療法

    醜状障害の治療は、主に形成外科で行われます。

    具体的には、放射線治療や皮下縫合により、醜状をある程度目立たなくすることができる場合があります。
    また皮膚移植が選択されるケースもあります。

    しかし、これらの治療を尽くしてもなお、醜状を完全に元通りすることは困難です。
    醜状が完治に至らなかった場合には、医師による症状固定の診断を受けた後、醜状障害の後遺障害等級認定を申請することになります

2、醜状障害の症状固定はいつ? 誰が決めるのか?

交通事故後に醜状障害が残った場合、後遺障害等級の認定を受けられます。

ただし、後遺障害等級認定の申請は、醜状障害について「症状固定」の診断がなされた後で行います。
「症状固定」のタイミングは、加害者に対する損害賠償請求の金額に影響する場合があるので、医師と相談して慎重に調整することが大切です。

  1. (1)症状固定とは?

    「症状固定」とは、これ以上治療を行ったとしても、その効果が見込めないと医学的に判断された状態を意味します。
    醜状障害の場合、「これ以上見た目の違和感を減らすことは不可能」と医学的に判断されれば、症状固定の診断が行われます

    症状固定の段階で、交通事故の結果として残った醜状障害の状態が確定しますので、後遺障害等級の認定を申請できるようになります。

  2. (2)症状固定の時期は医師が判断|保険会社ではない点に注意

    症状固定の時期は、医師が医学的な見地から判断します。

    その際、患者(被害者)への問診結果や、治療継続に向けた意思などが参考とされます。
    そのため、被害者も医師とのコミュニケーションを通じて、症状固定の時期をある程度コントロールできる部分があります。

    その一方で、示談交渉を控えた加害者の任意保険会社から、症状固定の提案を受けるケースがありますが、その場合には要注意です。
    症状固定の提案を受け入れてしまうと、任意保険会社から治療費が支払われなくなり、さらに入通院慰謝料など対象期間が打ち切られてしまいます

    症状固定の時期は、加害者側の任意保険会社ではなく、あくまでも医師が医学的な見地から判断するものです。
    保険会社の提案をうのみにすることなく、判断に迷った場合には、なるべく弁護士までご相談ください。

3、醜状障害について認定される後遺障害等級

醜状障害については、醜状の部位や程度に応じて、後遺障害7級・9級・12級・14級が認定される可能性があります。
また、複数の醜状障害が残った場合には、併合によって後遺障害等級が上がることがあります。

区分 後遺障害等級 醜状障害の内容
外貌 7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号 外貌に醜状を残すもの
上肢・下肢 14級4号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
14級5号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの


  1. (1)7級12号|外貌に著しい醜状を残すもの

    後遺障害7級12号の対象となる「外貌に著しい醜状を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものを意味します。

    ① 頭部の場合
    手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ)以上の瘢痕(はんこん)、または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損

    ② 顔面部の場合
    鶏卵大面以上の瘢痕(はんこん)、または10円銅貨大以上の組織陥没

    ③ 頸部(首)の場合
    手のひら大以上の瘢痕(はんこん)
  2. (2)9級16号|外貌に相当程度の醜状を残すもの

    後遺障害9級16号の対象となる「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目に付く程度以上のものを意味します。

  3. (3)12級14号|外貌に醜状を残すもの

    後遺障害12級14号の対象となる「外貌に醜状を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものを意味します。

    ① 頭部の場合
    鶏卵大面以上の瘢痕(はんこん)、または頭蓋骨の鶏卵大面大以上の欠損

    ② 顔面部の場合
    10円銅貨大以上の瘢痕(はんこん)、または長さ3センチメートル以上の線状痕

    ③ 頸部(首)の場合
    鶏卵大面以上の瘢痕(はんこん)
  4. (4)14級4号・5号|上肢・下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

    後遺障害14級4号・5号の対象となるのは、上肢または下肢の露出面に、手のひら大以上の醜いあとを残すものです。

  5. (5)併合等級について

    複数の醜状障害が残った場合、以下のルールに従って、併合による等級の繰り上げが行われます。

    8級以上の醜状障害が2つ以上 重い方の等級を2つ繰り上げる
    13級以上の醜状障害が2つ以上 重い方の等級を1つ繰り上げる

    (例)
    • 7級+7級→5級
    • 9級+12級→8級

4、醜状障害の後遺障害慰謝料・逸失利益

醜状障害の後遺障害等級が認定されると、加害者に対して「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を請求できます。

  1. (1)醜状障害の後遺障害慰謝料

    後遺障害慰謝料とは、醜状障害が残ったことにより、被害者が受けた精神的損害に対する賠償金です。

    後遺障害慰謝料の金額目安は、過去の裁判例に基づき(裁判所基準)、後遺障害等級に応じて以下のとおり決まっています。

    1級 2800万円
    2級 2370万円
    3級 1990万円
    4級 1670万円
    5級 1400万円
    6級 1180万円
    7級 1000万円
    8級 830万円
    9級 690万円
    10級 550万円
    11級 420万円
    12級 290万円
    13級 180万円
    14級 110万円

    高い後遺障害等級の認定を受けられれば、それだけ獲得できる後遺障害慰謝料の金額も増えることになります

  2. (2)醜状障害の逸失利益

    後遺障害逸失利益とは、醜状障害が原因で失われた労働能力に対応して計算される、将来にわたって失われた収入に関する賠償金です。

    逸失利益は、以下の方法で計算します。

    逸失利益
    =1年当たりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

    • ※1年当たりの基礎収入:原則として、事故前の年収の実額
    • ※ライプニッツ係数:以下の資料を参照

    • (参考:「就労可能年数とライプニッツ係数表」(国土交通省))


    逸失利益を計算する際の労働能力喪失率は、後遺障害等級に対応した以下の数値が用いられるのが一般的です。

    1級 100%
    2級 100%
    3級 100%
    4級 92%
    5級 79%
    6級 67%
    7級 56%
    8級 45%
    9級 35%
    10級 27%
    11級 20%
    12級 14%
    13級 9%
    14級 5%

    ただし醜状障害の場合、肉体的機能そのものが大きく損なわれるわけではありません。

    そのため、芸能人やモデルなど、外見が大きな影響を及ぼす職業を除けば、上記の労働能力喪失率が割り引かれてしまう可能性があるので注意が必要です。
    加害者側から提示された逸失利益の金額に納得できなければ、弁護士を通じて粘り強く交渉を行いましょう。

5、まとめ

交通事故で負った顔の傷が完治しなかった場合、醜状障害の後遺障害等級認定を申請しましょう。
正しい後遺障害等級の認定を受けられれば、適正額の後遺障害慰謝料・逸失利益を加害者に請求できます

加害者(任意保険会社)との示談交渉は、弁護士にご依頼いただくのがお勧めです。
ベリーベスト法律事務所にご依頼いただければ、法的な根拠のある主張を展開して、適正な損害賠償を迅速に獲得できるよう尽力いたします。

交通事故の損害賠償請求は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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